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味気なかった街がオレンジ色に染まっていく。
髪が傷むことを知っていながら強がりで染めるあたしたちとは違って、街は優しさに染まるんだと思う。一日働いて、勉強して、家事をして、疲れた顔の人たちを『おかえり』と抱き締めてくれる、あったかいオレンジ。
オレンジ色の世界に向かって、あたしは真っすぐ手を伸ばす。一度、肘を曲げて、勢いをつけて、シュッと。
飛び出した紙飛行機が、鮮やかに世界を裂いていく。白い残像が飛行機雲のように、まぶたの裏に残る。
やがて角度を変えたそれが、道路や川や住宅の屋根に墜落するのを見届けて、あたしは屋上のフェンスにもたれかかる。
──立入禁止の特等席に、ノックの音が響いた。
「……せんせ?」
やっべー怒られるかな、と振り返って、あたしはちょっと驚く。
「……野島、さん。ごめんね、お邪魔しちゃった」
申し訳なさそうに軽く頭を下げる彼女に、慌てて首を横に振った。
真宮さんもこんなとこ来るんだ。
何もなくて、誰もいなくて、ずっとあたしだけの飛行場だったところに。
「……真宮ちゃんもサボり? あたしら気が合うねー」
とりあえず笑った。
なんでだろう。なんであたし、真宮さんにだけは来てほしくなかった、って思っちゃうんだろう。
「……野島さんは、いつもここにいるの?」
「んーん、テスト返ってきた日だけ。赤点だったらここから飛ばすの」
「飛ばす……?」
きょとんとする真宮さんに、校門の向こう、コンビニの屋根に引っかかった紙飛行機を指差してみせる。
「あたし折り紙好きなんだよね、きっちりとは折れないけど」
「て、テスト折って飛ばしちゃったの……!?」
おめめをまんまるに見開いたあと、何を思ったのか、真宮さんはクスッと笑う。
「野島さんらしいね」
「あたしバカだからねー。こんな点取って、持って帰ってもママ何も言わないし。まぁ良い点取ってもノーリアクションなんだけど」
「良い点取っても……?」
「娘にキョーミないんだ、うちのママ。仕事仕事って、そればっかり。帰ってもひとりでカップ麺食べるだけだからなぁ。真宮さんも、おうち帰りたくない系女子?」
少しの沈黙のあと、彼女は優しく頷いた。
「……うん。おうち帰りたくない系女子」
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