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塾は好きだった。
学校は虐めてくる女子ばかりだけれど、塾の同じクラスの子達は、私と似ていて、話が合った。
学校のテストは簡単すぎるだとか、優等生だからと虐められるとか、共通点が沢山あった。
私のクラスは桜庭学園コース特別クラスなので、皆志望校は同じだ。
皆で一緒に桜庭学園に合格できたらいいな、と本気で
思っていた。
「どうして同じ計算ミスするの!!!」
左の耳がキンと鳴る。大きな怒鳴り声は反響して、デスクライトのバネ部分を静かに揺らした。
「ごめんなさい」
怒っているママは怖い。
大きな声で怒鳴り、それ以上になると本や鞄を投げつけてくる。体に当たると痛いし、その度にボロボロになっていく物たちが可哀想だった。
「何度言ったら分かるの!そんなんじゃ桜庭学園なんて落ちるわよ!」
怒鳴られる度、耳の奥がキンと鳴った。
大きな声の振動で震える、デスクライトの小さな部品を眺めながら、私はいつも、母が落ち着くのを待った。
怒鳴られている間はペンが進まない。
怖くて頭が働かないし、涙が出てきて問題が読めない。だからひたすら待った。
しばらく怒鳴れば母も怒りのボルテージが下がってきて、少し穏やかになる。そうすれば、また暫くは一人で問題を解く時間が貰える。
時には勉強机を降りて、床に正座しながら答案用紙を見返して母を待った。
どうすれば怒るのをやめてもらえるのかわからなかったから、出来るだけの謝罪をこめた。
ミスをしてしまう私が情けなかった。解けるはずの問題を落としてしまう私が悔しかった。
そんな辛い、怒られる時間の中にも、好きな瞬間はあった。
沢山反省して、沢山泣いたら、ママは許してくれた。
ごめんね、ママ言い過ぎちゃったね。真奈美ちゃんのこと大好きだよ。
そう言って泣いている私を抱きしめてくれる、その瞬間はとても安堵するからだ。
だから私はひたすら反省して、謝るのだ。
怒っているママは怖いから。
優しいママでいてほしいから。
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