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あたしは、しくしくと泣きながら聞いた。
「ママは、あたしのこと嫌いなのかな」
どうして?とパパが聞いてくる。笑ってるけど、ほんとうは苦しいんだって、あたしは知ってる。
でも、ぽろぽろと目から落ちる水は止まらない。
だってね?とあたしは言う。それを待ってるけどほんとうは、どうしてなのかパパは知ってる。
でも、聞くの。あたしを涙の海から助けるためにね。
「ママが…ママが、あたしをぶつの」
そしたら雪みたいに白くて、鉛筆みたいに細いパパの手が、そうっと、あたしの手をつつむ。そうすると水は止まるんだ。
「それは、ママについているお化けのせい。そのお化けが、ママをあやつって悪さをしてるんだ。友美のことが嫌いだなんて、そんなわけないさ」
ここまでは、いつもと同じだった。でも、その日だけはちがった。
「だいじょうぶだよ。パパがお化けをやっつけてあげるから。だから…ママのこと、ゆるしてあげて」
あたしは、どうやって?と聞こうとしたけど、こわくて言えなかった。そのときのパパは顔まで雪みたいに真っ白で、まるきりお化けだったから。
ずっと病院にいるせいかも。そう思っていたら、しばらくしてパパはお星様になった。
あたしは悲しくて、ずっとずっと泣いていた。水は、どんどん増えて川になり、海になり、あたしを飲み込もうとした。
もうだめだって思ったら声が聞こえた。ママだった。
「こんなママでごめんね。困ったら、幸枝ちゃんのところに行きなさい。友美、だいすきよ。だから、ママは…」
幸枝ちゃんは、ママの友達。いつもにこにこしていて、とってもやさしいの。
ぶたれる気がしてこわかったけど、ママはあたしをぎゅうっと抱きしめた。心がぽかぽかした。うれしかった。パパが、お化けをやっつけてくれたんだと思った。
「あたしも、ママがだいすきだよ!」
あたしを見て、にっこり笑ったママは、お仕事に行ってくるねと言って家を出ていった。
それきり、帰ってこなかった。
困ったあたしは、幸枝ちゃんに聞いた。
「ママ、知らない?帰ってこないの」
幸枝ちゃんは、笑った。さみしそうな目をしていたのは気のせいかな。
「お仕事がいそがしいんじゃないかな。ママが帰ってくるまでの間、友美ちゃんがさみしくないように、ママの代わりをお願いしよっか!」
お仕事ならしかたない。パパもいないし。それに幸枝ちゃんは、いじわるしないってあたしは知ってる。それなら幸枝ちゃんがいい!と言いたかったけど幸枝ちゃんは優くんのママ。
優くんはまだ小さくて、一人でご飯が食べられないから、だめなんだ。あたしは、ずっと優くんがうらやましかった。
「幸枝ちゃん、ありがとう」
あたしは言った。図書館で本を借りるのとにているんだって。お金がたくさんいるみたいだけど、お仕事に行く前にママが置いて行ったからだいじょうぶだって。
一週間くらいしたら、ぴんぽーんって音がしたから、どちらさまですか?とママのまねをした。少し高い声を出すんだよ。
『友美ちゃん?こんにちは。幸枝ちゃんにたのまれてママの代わりをしにきました。開けてもらえるかな?』
ドアの向こうから、知らない女の人の声がした。あたしがドアを開けると、男の人も立っていた。
「初めまして。友美ちゃん。ママが帰ってくるまでは、私たちを家族だと思って、なんでも言ってね!」
女の人は、幸枝ちゃんみたいに笑った。男の人は、パパとちがってメガネをかけていて、太っていた。
ママはお仕事だけど、パパはお星様になったんだから代わりはいらないのにな。
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