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あるクラスメイトの独白
噂の彼が僕の斜め前に座っている。
僕は何だかこれが夢か幻かとボンヤリとした気持ちでその姿に見惚れていた。
僕たち同世代の貴族の子供達の中で彼、リオン様の事は眉唾物として面白おかしく噂されていた。
天使の様なとか、目が潰れるとか、妖精だとか。
噂は流れてくるものの、実際に会ったり目にした仲間はほとんどいなかった。
後で分かった事だけれど、リオン様は幼い頃から病弱でほとんど家を出なかったらしい。
スペード家には妖精がいると噂はあったけれど、皆家族の欲目だとか、子供は可愛いよねという感じで本気にしてなかった様に思う。
実際、僕の両親の社交界デビューのあの日を境にした豹変ぶりを見ればそう思う。
あの日次々に増えていく参加者の中で僕は久しぶりに会えた友達と、いつもと違うデビューでの緊張を感じながら挨拶を交わしていた。
ふと入り口の方からざわめきが波の様に静まってきたのを感じた僕は、皆に釣られる様に目をやった。
そこには確かに天使がいた。
愛くるしい顔に人を虜にする様な瞳がキラキラと瞬いていた。すんなりと伸びた華奢な身体つきは、女の子と言ってもおかしくない姿だった。
けれども女の子達の様にドレスを着ていないからか、むしろずっとしなやかさが目に焼きついたと言うか。
無垢と言ってもおかしくない天使ぶりだったのにも関わらず、僕は見てはいけないものを目にしてる様なやましい気持ちに何故かなってしまっていた。
僕たちは花に魅せられた蝶の様に、出来るだけ彼の側に近づこうと試みたのだけれど、多くの仲間達が同じ事を思った様でそれは上手くいかなかった。
時折彼が仲良しの貴族令息たちと、こらえ切れないように弾ける笑顔と笑い声を響かせると僕らは益々彼に焦がれた。
ああ、やっぱり天使、いや妖精はいたんだ…。
デビュー後はもっぱら彼の話で盛り上がったのは想像に固くないだろう。
待ちに待った学院生活が始まって、僕は運良く彼とクラスメイトになれた。
彼は算術がとても得意で、飛び級のユア様や知性派キース様には負けるものの、他の教科もそつが無い気がする。
しかも一緒に過ごしているうちに気づいたのは、実は彼は天使の顔をした魔物という事だ。
1番の被害者は1番近くにいるユア様で間違いないだろうけど、リオン様の無邪気な振る舞いに惑わされてウッカリ囚われるとそれこそ顔から火を吹くハメになるんだ。
クラスメイトが大なり小なりリオン様トラップにひっかっかり、天国の様な、地獄の様な…身悶えする羽目になる。
ああ、リオン様これ以上罪深い振る舞いをやめて下さい…。ふう。
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