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今日会う人のプロフィールは、頭に叩き込んでいる。
宮苑優貴 30歳
出身地 東京都
現在住所 東京都
最終学歴 大学卒業(M大学)
職業 SE
年収 600万円
家族構成 父 母 兄
趣味 映画鑑賞、美術館めぐり
その他、相談所のプロフィールには身長、体重、血液型まで記載されている。
自己PR文は、当たり障りのない内容ながら、悪い印象は受けなかった。
同世代というのもポイントが高い。
何より、写真に写った男性は爽やかで、笑顔も可愛いかった。タイプかと言われると違うけど、一度会ってみたいと思うくらいには素敵だった。
まあ、写真どおりの人物が現れるとは限らないんだけど。
品川駅から徒歩10分、プリンスホテル高縄のラウンジにある、TAKANAWAカフェにて面会だ。到着したが、待ち合わせにはまだ早い。
あたしはトイレで化粧直ししてから、鏡で全身をチェックする。髪型OK、ワンピースも夏らしい、今日のあたしはとびっきり可愛い!と暗示をかける。
それから、カフェに戻り、仲介者が予約してくれたテーブル席にて、お相手を待つ。
水を飲むと、目の前がぼうっと霞んだ。
クーラーで汗が冷える。広い窓ガラスの先には、鮮やかな緑が広がっている。ここの庭は好きだ。お見合いじゃなきゃ、もっと穏やかな心地で堪能できたのに。
手持ち無沙汰で目を通したメニューの飲み物、一番安いブレンドコーヒー1300円。最初の面会では男性側が全額出してくれるから、こちらの懐が痛むことはない。だからこそ、申し訳ない気持ちになる。
「お待たせしてすみません。鳥海千夏さんですか?」
意識が飛んでいるところに声をかけられ、パッと顔を上げる。
写真詐欺じゃなかった。ちゃんと、あのお見合い写真そのものの男性だ。
「はい。そうです。よろしくお願いします。宮苑優貴、さん?」
あたしが立ち上がって挨拶すると、向こうも緊張した面持ちで、口元に笑みを刷いた。
宮苑さんは、あたしの正面に座ると、メニュー表を手に取った。
「もう、何か注文されましたか」
「いえ、まだです。宮苑さんが来られてから頼もうと思って」
「そうですか。どうぞ、遠慮せず。支払いは僕が持ちますから。ケーキとかいかがですか」
「いえ、今はお腹いっぱいで……。オレンジジュースを頼もうと思います」
「では、僕もそうしようかな」
宮苑さんが店員を呼び止め、てきぱきと注文してくれた。うん、そつない。
これはモテないわけがないと思うんだけど、何で結婚相談所で活動してるんだろう。
「あの、鳥海さん」
「はい」
笑顔を絶やさず、明るいトーンで答える。
「いきなりこんなこと言って何だけど、僕、あなたのこと知ってます。中学校で一緒でしたよね?」
「え……。えぇ!?」
完全に予想外、アッパーカット並みの破壊力を持つ台詞に、表情を取り繕うのを忘れた。彼から見たあたしはさぞ、間抜けな顔をしていただろう。
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