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chapter 01:別れ。
「別れよう」
「えっ?」
放課後。誰もいなくなった教室で、俺は付き合い初めて一ヶ月になる恋人の七瀬 筑紫に告げた。
言った声は本当に自分のものだろうか。とてつもなく冷たく、そして機械的なものだった。
その声が、静かな教室の空間に振動する。
「どう、して……」
突然のことで頭がついてこないのか、筑紫は大きな目をいつも以上に大きくして、俺を見上げている。
それはそうだろう。ほんの五時間前の昼休憩では屋上で一緒に弁当を食ったんだ。俺の突飛な発言に戸惑うのも無理はない。
だが、それもほんの数秒だった。少しずつ、筑紫の綺麗な瞳が大きく揺れはじめる。
「他に好きな奴ができた」
――嘘だ。筑紫以外に好きな人なんていない。
だが、俺では筑紫を幸せにしてやることができない。
俺は揺れている瞳を真っ直ぐに見つめることができず、目を伏せた。
俺がこの別れ話を切り出したのは彼を好きとか嫌いとか、そんな安直な理由ではない。
問題なのは、俺の家系がヴァンパイア一族だからだ。とはいっても、人の生き血を吸うヴァンパイアではない。
俺は人々のエナジーを吸って生きている『エナジスト』という一族のヴァンパイアだ。世間では十七歳として白鷺高に在籍してはいるが、実年齢は一〇〇を越えている。
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