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それでも筑紫はやはりダメージをくらっているのか、目が潤んでいる。そればかりか昨夜からずっと泣き通しだったのだろう。瞼が赤く腫れている。
筑紫は俯き、ただ突っ立っていた。
年頃の男子よりも背は低いと思っていたが、いつも以上に背が低く感じるのは、おそらくは昨日、俺が振ったからに違いない。
項垂れている筑紫はとても悲しげで、苦しそうだった。
できるなら、悲しむことはないと宥めてやりたい。
こうやって筑紫は俺の中に眠っていた母性を簡単に引き出すんだ。
俺は筑紫を保護したくなる感情を押し殺し、伸ばしたくなる両手に拳を作って耐える。
「何しに来た。お前とはもう何の関わりもないと言った筈だ」
できるだけ声を低くして、目を逸らしたい気持ちを堪える。
もう別れると決めたのに、俺の方が打ちのめされそうだ。
「――っつ!!」
もう貴方には愛想が尽きた。別れて清々すると言ってほしい。
そして一刻も早く俺から去ってほしい。
そんな俺の気持ちを知らない筑紫は、華奢な肩を震わせた。
「まあ、悠騎。そんなに怒って、いったいどうしたの? お友達とは仲良くしなきゃダメでしょう! さあ、中へどうぞ。私たちはこれから出かけるけど、ゆっくりしていって頂戴ね?」
何を思ったのか、母さんは横から入って来るなり、筑紫の背中を支えて中に入るよう促した。
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