ヒミツ(オメガバース/β→Ω受け)

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ヒミツ(オメガバース/β→Ω受け)

景(けい)×頼人(よりと) 「俺、Ωだった」 朝倉 頼人は、この世の終わりのように絶望し、青白くなった顔色を隠す事なく友人の景に向き合った。 頼人の発言に景はスマホを触る手を一瞬止め、頼人の表情を見つめると、聞き間違いではないと判断した。 「…まじかよ。こういう現象ってあり得るのか?何かの間違いじゃないのか」 「何度も先生にも確認した。βからΩになる事なんて稀な事らしい。今すぐ逃げ出したい」 頼人は弱音と共に深く溜息を吐いて、目を隠すように手で覆う。 頼人はずっとβだと思って生きてきた。Ωは生きづらいだろうなと他人事のように思っていた。 体調不良が続いたのがきっかけで病院に行くと、Ωに転身していたのだ。 原因不明だと言う先生に問い詰めて、同じ検査を何度も何度も行ったが、出る結果は全て同じだった。 これからはヒートに怯え、αの視線から逃げて生きていくのか。 そういう未来が想像できてしまって、一瞬にして息が詰まった。自分と同じようにΩの存在が居るのも分かっているのに、この事は誰にも言いたくないし、知られたくないとまでも思ってしまった。 頼人が素直に受け入れられないのは、αが嫌いだからというのも一つの理由だ。Ωを支配する存在のαが怖くて、自分が何かされたわけじゃないが嫌悪感が拭えなかった。 頼人はチラッと目の前の男を見る。 景は頼人が弱った態度を取っている事に困り果てた様子で、何と声を掛けたらいいか分からないという顔をしていた。 「いきなり奇妙な事を言って悪い。こんな事、同じβだった景にしか言えなくて」 「今更なんだよ。頼ってくれた方が嬉しいに決まってるだろ。まぁ、大丈夫だよ。何かあったら直ぐに俺が助けてやるから」 「…ありがとう」 弱った頼人を慰めるようにポンッと肩に手を置くと、嫌な顔せず無邪気に笑う景に頬が熱くなるのが分かった。そんな表情を景にバレないように顔を背けて下を向く。 頼人にとって景は幼馴染とも呼べるし、親友と言っていいほど長い付き合いで、小学校からの仲だった。 そんな景に恋愛感情が芽生えたのは、中学の頃だ。きっかけはなんだったのか忘れるくらい、会えば会うほど景に対して惚れていく自分がいた。 小学校も高校も大学まで同じで、常に一緒に行動している。 景は俺だけじゃなくて誰にでも気さくで優しい男だ。それに一緒に居て落ち着く存在なのは今も昔も変わらない。それでも一緒に居てくれるだけで幸せだった。 この気持ちを伝えたら一瞬で糸が切れる事なんて分かっていたことだ。だから言わない。 そう思っていても、景への気持ちはどんどん膨らんでいく。 それでも景はいつか彼女を連れてくるだろう。あとは俺の受け止められるかの問題になる。 大学生になっても景が彼女の気配を感じないのは謎だった。 頼人と反して誰もが声を揃えて格好いいと言うくらい整った顔と、いつでも爽やかで誰にでも平等に接する景の存在を放っておくわけがないと思っていた。 それに女子と二人で居る所も見たことがある。お互い何でも話してきた仲なのに、彼女が出来たと聞いた事がなかった。 「(俺がΩなら…景がαだったらいいのに)」 αの事が嫌だと思う反面、これを利用して意地の悪い事が過る。勝手にαの事を毛嫌いしておいて、自分勝手な男だと我ながら思ったのだ。 「とりあえずヒート近付いたら大学休めよ。いつどんな時にヒートの予兆があるって先生から聞いたのか?」 「実は体調不良がヒートの前触れらしくて、いつ起きてもおかしくないって言われた。だから明日から数日休むかもしれない」 「分かった。一人じゃ辛いだろ?学校終わりに来るよ」 「いや、いい。いくら景がβでもどうなるか分からないし、その時は一人で居たい」 それは本心だ。Ωの発情期がどういうものなのか知らない。理性を無くして景を襲ったりと想像しただけでゾッとする。 それにいくらβでもΩのフェロモンに酔ってしまう事も無くは無い話で、Ωの発情期は底知れずだとも。 そう告げると景は眉間を寄せ、無理するなよ。と優しく頼人の頭を撫でた。 *** 翌日。身体が火照り、じんわりと汗をかいて目が醒めた。 時間を見ると、既に昼は過ぎている。昨日食材を買い占めて良かったと思った。初めて体験するのに、これは発情期の前兆なんじゃないかと感じた。 凄くゾワゾワする。体調不良などの風邪の症状とは違う感覚。今すぐに沈めたくなる感覚。 「これが前兆?嘘だろ、もっとこれから酷くなるのか?」 頼人は我慢できずにズボンに手を突っ込み、後ろめたさを忘れ、触れようとした時だった。ベッドの上に置いていたスマホの振動でビクッと驚いて手を引っ込めた。 「っ…誰」 スマホの画面を確かめると景からの着信だった。 「もしもし?」 『体調はどう?』 「先生の言っていた通り。昨日買い貯めして正解だったわ」 『……へぇ。本当に来たんだ。実は俺も気になって今、頼人の家の前に来てる』 来てる?来るなって言ったのに。こんな状態で景に会いたくない。 電話越しに響く景の声ですら頼人を全身奮い立たせるくらい感じた事のないモノが走る。 すると、部屋にチャイム音が部屋に鳴り響き、仕方無しに怠い身体を起こした。 本当に来たんだ。こんな状態で会いたくない。…仕方ない。ふぅ、俺、落ち着けよ。 そんな気持ちがグルグルと回るが、ずっと響くチャイムを止める為にフラつきながら玄関へ向かって扉を開けた。 「景…。何で来てんだよ」 「辛そうだな。とりあえず家に入れて」 「いや、入れてって…おい」 景はいつもと変わらない笑みを浮かべ、頼人の肩を押して家の中へ無理矢理入り込んだ。 その時に少しフラついても景がしっかりと支えてくれた。 すると、肩に触れられた景の手の感触と自分の体の熱と反して、ひんやりと冷たい温度にビクッと勝手に反応してしまう。 その時に嗅いだ事のない匂いが景から感じ、自然と景の方へ近寄ってしまうほどだ。 あれ、景ってこんな匂いだったか?景は落ち着く匂いで、鼻に付くような匂いじゃなかった。何だこれ。 「景、何か匂いが違う?…香水なんて付けてたっけ?」 頼人をリビングに引っ張ろうとしていた景は、ぴたりと動きを止め、振り返ると家の鍵を閉めた。 その時に浮かべている景の表情が見た事の無い顔をしていて、頼人も微動だにせず固まってしまうほどだ。 そんな景は頼人の手を掴んでスタスタと歩き慣れている道順でベッドの方へ辿り着くと、そのまま押し倒してきたのだ。 「いった…何だよ、急に…っ!」 景に押し倒された時に頼人は気付いてしまった。臀部から股へと滴るくらい濡れていて、咄嗟に足を閉じる。 これはΩ特性のものだ。 この時にとどめを刺されたように、頼人は本当にΩなんだと思い知らされてしまった。 「なぁ、頼人。中学の時に頼人の実家で一緒に見たニュース番組で、Ωを無理矢理襲ったαの事件が増えているっていう特集しててさ、その時にαなんて嫌いだって言ったの覚えているか?」 見上げる景の表情は口角は上がっているが、射抜くような鋭い目線は頼人から視線を離そうとはしない。 一体、何の話をしているのか分からなかった。だからこそ落ち着かせるために景を押し退けようとするが、強い力で両手をベッドに押さえつけられる。 「…何の話だ。とにかく、離し「覚えてないならいい。でも俺はαって判明したあの日からずっと隠してきた。頼人に嫌われたくないからな」 は? 一瞬、聞き間違いかと思考が停止する。衝撃の発言。しかし意志と反して、じんわりと蝕む熱に身体の力が抜けてきた。 「頼人がβと聞いて悔しいって思う反面、誰の番にもならないって思うとそれでいいって思ってた。…だから嬉しかったなぁ。頼人がΩって聞いた時」 いつもと変わらない爽やかさを残したまま他愛のない会話をするように思いがけない台詞を景は囁く。 「βって嘘吐いたままでも良かったけど、それじゃ俺が足りなかった。多分頼人がΩに転身したって言った瞬間、色々と切れた」 頼人は何を聞かされているんだと頭がついていかずに脳内で警報のようなものが鳴り響く。 「さっき俺のフェロモン感じ取った時、本当に嬉しかった。嘘吐いてごめんな?」 一体全体、何が起きてるんだ。 顔を傾げていつも通りふわりと優しく笑う景は、愛おしそうに頬に手を当ててきた。やけに冷たい手のひらが、頼人の沸騰しそうな熱を吸収していく。 頼人はギリギリの理性で繋ぎ止められているが、Ωの発情期に抗えずにおかしくなりそうだった。 景がα?そんなわけない。今までずっと同じβとして話だってしたはずだ。 それが本当なのか嘘なのか、何故こんなことになっているのか受け入れられない。けどこの状況で二人きりになるのは間違っている。危険だ。 「景。と、とりあえず、それが本当なら今すぐ出て行ってくれ。…駄目だ、こんなの」 「何で?俺の事好きなんじゃないの?」 景の台詞で目の前が眩むくらいドキッと心臓が高鳴った。 何故?いつから分かってたんだ。 「な、に言ってんの。おれは、その」 「俺はずっと気付いてたよ。幼馴染ってなんでも分かっちゃうんだよね。それに俺も頼人が大好きだから。逆に発情して素直になれないのも凄いよ。まぁ、そんな頼人も好きだけど。…頼人ー。すごい良い匂いする。堪らない」 「っ…景、やめろって!」 景が首元に顔を埋めてくると、大きく息を吸った。 自分の事が好きだと告げている景にも興奮が高まっているのに、肌が密着して匂いがどんどん強くなっていく過程に、嫌でも身体がムズムズしていた。 身体全身に熱がこもって苦しい。 もう限界だ。 触って。 嫌だ。 でもαの景も好きだ。 欲しい。 のまれたくない。 感情がグチャグチャで、肩を上下するほど息が上がり、意識が朦朧としていく。 そんな中、もしかしたらその好意はΩの匂いに当てられて、冷静になってないんじゃないかと、微かに嫌な事が横切った。 「…今、俺の匂いにあてられているだけだ。景の事…その、恋愛的な意味で好きだけど、冷静になった時に後悔して欲しくないんだ」 「…これで俺との子供が孕めるな」 「っ、は、……な、に?」 「誰かに取られるくらいなら、もう俺しか見れないようにした方がいいかなって。俺以外が頼人の横にいるだなんて許さない。だって頼人は俺の事好きなんだろ?ならαの俺が番になった方がいいよ」 喉に何かが詰まったような感覚に、言葉が出なかった。 景は頼人の頸に手を滑らせると、優しく指先で撫でてきた。 少し触られただけで甘い吐息が漏れて、ゾクッとしたものと全身に血が走るような感覚がした。 目の前に居るのは本当に景なんだろうかと頼人は言葉を失ってしまう。景はまるで頼人の言葉なんて聞こえていないようにも見えた。 「頼人……ここかな」 すると、景は不敵に口角を上げたまま頼人の下腹部を指でなぞるように沿わせた。そこはきっとΩ特有の子宮がある場所だ。 あぁ、そうだ。景が言ってた孕むとはそういうことで…俺と景の子供?いや、もうダメだ。どこかで景になら孕まされてもいいと思っている。 景はΩのフェロモンにやられて我を忘れてしまったのか、今までずっと仮面を被っていたのか分からない。…それとも、どちらも正解? 景のことは何でも分かってるつもりだったはずなのに。きっと俺がΩに変異してしまったことが引き金になってしまったんだ。 それでも景の事が好きだとしか思えない俺は、これが甘美な夢なら醒めないでほしいと願っている。 Ωの発情期に耐えられずに限界を達していた。頼人は抵抗することも忘れてしまい、気が付けば景の服をギュッと握りしめていた。 景は「可愛い」と囁くと、優しくて甘い笑みを浮かべていた。 「頼人、これからもずっと一緒に居ような」 そう言った後に頼人のファーストキスは初恋の景に奪われたのだった。 END β(実はα)×β→Ωで両片思いでした。 これは何攻めになるのか。ヤンデレ?だとしたらもっと病んでてもいいかなと思ったり…執着攻めでしょうか?うーん。いまだに分かりません。
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