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 その夜、涼介は開の寝室に泊まることになった。マンションに泊まるのは初めてではないが、開は毎回、宮前が使っていた別室のベッドを用意していたから、涼介が開とベッドを共にするのは実に約三年ぶり──二人が出会って間もない頃、開が風邪をひいて仕事を休み、駆けつけた涼介に過去を話した、あの日以来だ。  開のベッドに入った涼介の身体は熱くなっていた。バスルームで開に導かれた興奮がまだ下腹に残っているような気がした。  だが。 「っ……くっしゅん!」 「シャワーして余計に冷えちゃったかな。ごめんね、涼くん」  涼介に着せたスゥエットシャツの裾から手を差し込む開。しかし素肌をまさぐっているのではなく、脇用の体温計を取る為だ。 「三七度ちょうどか。少し早いけど、今日は暖かくしてもう寝よう。食事は食欲が出たら食べられるようにしておくからね」  いえ、食欲より性欲がおさまらないんですが、と言う言葉を寝具に潜って飲み込む。なのにシーツからも毛布からも微かに開の香りがして、余計に欲をそそられてしまう。  涼介はベッドサイドから立ち上がろうとする開に手を伸ばした。 「開さん、行かないで」  大型犬のイメージの涼介が子犬のような目で見上げるものだから、バスルームの片付けに行くつもりだった開は再びベッドサイドに腰を下ろして涼介の頭を撫でた。 「急に甘えんぼさんだね、涼くん」 「だって……」  開の細い指が髪の中に入り、地肌を行き来するのが気持ち良かった。涼介は心地よさに目を閉じたが、口は開いたまま話を続けた。 「あのね、ごめんね、開さん。俺、かっこいいこと言いながらもさっきのめちゃめちゃ気持ち良くて一人でイっちゃって……」  そうなのだ。涼介はあっという間に登りつめて、情けなくもそのあと力が抜けてしまった。それに、無闇に手を出すわけにも行かず、開が達していないのはわかっていたのになにもできなかった。 「涼くんにそうなってほしくてしたんだ。僕にも涼くんにできることがあるってわかって嬉しかったよ」  涼介の胸がきゅん、と攣縮する。  出会ってからずっと、開には幸せをたくさんもらっているのに、開はいつも自分を過小評価だ、と思う。 「俺も開さんにいっぱい色んなことをしてあげたい。ねぇ、今度はあれ、俺がしちゃ駄目?」 「あれって」 「あれ」  あれと言えばさっきのあれだろう。わかってるくせに、と涼介は閉じていた瞼を開いて瞳で開に訴えた。 「ん……そう、だよね……でも、あの……涼くんにちゃんと話さないといけないんだけど、僕は」 「大丈夫。もうわかってるから」  開が言葉を選ぼうと考えながら話そうとし出すと、涼介がベッドから起き上がり、しっかりと開の両手を握った。
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