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「約束するよ、開さん。俺は開さんを怖がらせたり不安にさせることはしない。身体の自由を奪うようなことはしないし、触れるときは必ず顔は見せたままにする……恥ずかしいけど。でもね、開さんにも俺で気持ちよくなって欲しいんだ……」
涼介の手に力が入る。ねじ伏せる強さでは無く、包み込む暖かさがそこにある。
ああ、涼介にも言葉は要らないのだと開は思った。宮前と手を重ねて心を繋いだように、いや、これから先はそれ以上に、涼介と心を通わせて行くのだ。
「うん」
胸がいっぱいで、開は頷いて手を握り返すのがやっとだ。
涼介は動いた開の指に自身の指を絡めて続けた。
「俺、開さんが嫌だって言ったらすぐにやめる……頑張る……絶対に最後までとか求めないようにする……でももし、この先開さんの気持ちが変わって俺にできるんなら、俺、それでもいいよ……だから、開さん。これからはできないことよりもしたいことや、俺にして欲しいことを多く言って?」
「涼くん……」
「話が飛んじゃうけど、俺、開さんにいっぱいいっぱい幸せをあげたい。それが俺にも幸せなんだ。だからさ、俺にたくさんお願いごとをしてね。できないことが無いように、叶えて行くからね!」
──なんて愛情なんだろう。
涼介の大きな愛情で、開はこれまで自分が受けてきた多くの愛情までをも実感する。亮輔から貰った太陽のような暖かい愛、冴子から貰った、時には辛辣だけれど行き先を示してくれる風のような愛、宮前から貰った、常に寄り添うように自然に在る空気のような愛。
──たくさん、たくさん貰って来た。そして、涼くんがくれるのは……。
その全てだ。
開の全てを認め、包んでくれる大きな大きな愛。開がしっかりと立って歩いて行けるように支えてくれる、まるで、広大な大地のような。
「うん……」
開は力強く頷く。それから、まっすぐに涼介に顔を向けて瞳を見つめた。
「涼くん。本当はさっきシャワーに誘った時から決めていたんだ。僕も男だ、覚悟を決めるよ。もう待たせない」
開の言葉と手に熱がこもる。同時に涼介の胸が騒ぎ出した。
──覚悟、ってことは……まさか今から? え、どっち? する? される? どっちにしても準備、準備は……!?
涼介の頭の中で宮前のHow toが回り出す。微熱が高熱に変わりそうな勢いだ。
だか、ともかく開に任せるしかない。涼介は性行為が未経験どころか男性同士のそれに関しては文字でしか知識がない。
「涼くん」
開の手が涼介の二の腕を掴んだ。瞳は真剣そのもので、いつも弱々しいガラス細工のような開から男らしい強いオーラが放たれている。
これは自分が受け身かと、涼介はごくりと生唾を飲み込んだ。
──怖がるな。開さんと身体も繋がれるんだ。
涼介も覚悟を決めた。きっともう聞かなくてもいい。そう思いながら瞳を閉じ、開に唇を寄せて行く。
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