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 が、その時だった。開の口から思わぬ言葉が飛び出した。 「涼くん、ご両親に挨拶に行こう」 「……は?」  瞼を開いて開を見る。どこにもキスを受けようとする甘い雰囲気は無く、涼介は進めた顔を引き戻した。 「まずは僕達のこと、理解して頂きたいんだ。今までは君が僕から離れてしまう未来を考えて、二人の付き合いのことは最小限の人達にしか公言しなかった。でも、僕は君とこの先も一緒にいたい。だから、一番理解して欲しいご両親に会いに行かせて欲しい」  ──うん、凄くいいと思う。開さんが俺を百パーセント信じてくれたってことで、して欲しいことをちゃんと伝えてくれて……でも! そうじゃないんだよ。それはめちゃ嬉しいんだけど、今は違うくない????   「あの、開さん。それはあとでゆっくり話し合うとして……それより、先に"あれ"を……」  浅ましいと思われても、機会を逃すと駄目だともう一人の涼介(じぶん)が囁いている。 「あれ?」 「そうです。あれです」 「……涼くん、物事には順序があるんた」 「へ」  呆気に取られる涼介を前に、開が「上司」の顔をして話しだした。もう二年前に書店でのアルバイトは終わっていて、勤務先での上下関係は無いはずなのだが、こうなったら涼介に口出しは許されない。 「さっき僕が手を出してしまったのはごめん。あれはこれまでのお礼と言うか……そうだ、ボーナスみたいなものだと思って欲しい。ともかく、いい? 涼くん。君はまだ未成年だから本来は不適切だ。僕は責任ある社会人としてまずは君のご両親に許しを頂いて……」  ボーナス……未成年者……そのあとの長い演説は涼介には「うんちゃらかんちゃら」としか聞こえなかったが、とどのつまり焦らしプレイだ。今日はもう、と言うより次に機会が訪れるのがいつになるのか皆目わからない。  涼介の収まりきっていなかった下腹の熱も、開の身体を受け入れようと準備していた気持ちも侘びしく萎えて行く。 「……わかりました。家の方は日にちを調整して、追って連絡します」  いつのまにか正座になっていた涼介の言葉も一社会人らしいものになり、開は満足そうに頷いた。そういう顔も、涼介は好きではあるのだが。  ──あーあ、せめてもう一回キスだけでもしたかった……。  涼介は本音を胸の中で呟いて、諦めてベッドに横になろうとした。すると、開がベッドの上に腰掛け直した。     ほんのりと頬が赤い。 「開さん?」 「それでね……ご両親の理解が得られることが前提だけど……涼くんの二十歳の誕生日にはこの家で一緒に暮らしていたい」 「──えっ!?」  ベッドに沈みかけた身体を起こし、涼介は本日何度目かの驚愕の声を上げた。 「開さん、それって……」  涼介に背を向けて座っていた開の身体がゆっくりと動いた。 「うん……これが僕の覚悟。涼くん、絶対に君を離さない。これからはいつも僕のところに帰ってきて欲しい。晴れても雨でも風でも、必ず僕の元に帰って、僕に"ただいま"を聞かせて欲しい。この先ずっと、僕と一緒にいてください」  リンゴーン……。     涼介の耳に、教会の鐘の音が聞こえた。    ──プロポーズ。プロポーズだ。これはもう、プロポーズだ。 「はい! 開さん。結婚しましょう!」  涼介は再び正座になり、開の手を取る。
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