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 梅雨明けの頃。  涼介は久しぶりに高校からの親友である野田と皓斗と夕食の約束をした。涼介には二人に報告したいことがあったのだ。 「来月から開さんと一緒に住むんだ」 「おおー! やったな。とうとうか」  二人とも自分のことのように喜び、何度目かの「ジュースで乾杯」をする。 「親は? 大丈夫だったのか?」  野田がトレードマークの黒縁眼鏡の奥から涼介を見た。 「うん……泣かれたけど許してくれてる……百パーセント理解ってわけじゃないけど……焦らず伝えていくよ」  開のマンションで夜通しキスを繰り返した次の日、涼介はまずは一人で両親に告げた。  両親は今時の考えを持っていてLGBTQで悩む人々の理解がある方だが、それは当事者でないからだったのだと気付かされた。ましてや息子の涼介はゲイでは無いのだと言う。ただ、好きになった人が男性だっただけのことだと。  涼介が誰にどのように恋をしようとそれを止める権利は無いが、涼介はその男性と将来を誓いたいと言っている。  まっすぐに育ってきた息子が同性恋愛や結婚に賛同的でない日本で受けるであろう蔑視や批難を思うと喜んではやれないし、なにより涼介はまだ成人も迎えていない。若さゆえに一時の感情で突っ走っているとしか思えなかった。  だから開が涼介の両親に会えたのは、涼介が話を切り出してから約二ヶ月が経過したは六月の真ん中頃だ。  そのあいだは涼介が開のマンションへ立ち入ることも親に禁止されてしまった為、こと涼介にとっては辛い期間だった。  だが、涼介は開との将来の為に何度も両親の背に話しかけたし、仕事で必要な資格試験の取得にも励んだ。  望む幸せの為に努力を重ねることは、涼介には苦では無かった。 「……良かったなぁ、本当に良かった。俺達……俺、が出来なかった分、涼介には幸せになって欲しいからさ」  皓斗が涼介の背をぽんぽん、と叩きながらしみじみ言う。  アルコールは入っていないのに、涼介には皓斗の目が僅かに潤んでいるように見えた。 「うん……ありがとな……」  涼介と開と同じに同性と恋愛関係にあった皓斗だが、高校卒業と同時に相手から別れを告げられている。  相手が皓斗にどう告げたのかまでは知るところでは無いが、唯一彼と中学からの友人で、折々に互いの恋愛について語り合っていた涼介は別れの理由を良く知っていた。  彼もまた、心が不器用な人間だ。  皓斗を真剣に思うあまりに、同性同士の恋愛で皓斗やその家族が批難を浴びるかもしれないこと、元はノーマルだった二人の、それも十代の恋愛に対して、いつの日か皓斗が「こんなはずじゃなかった」「一時の感情だった」と後悔する日が来るんじゃないかと言うことを常に不安に感じていて──開が涼介に対してそうだったように。涼介の両親が心配するように──結果、彼は自ら恋愛に終止符を打った。  皓斗と自分は紙一重だと涼介は思っている。  だからこそ、涼介は行動で表す。どんなに深く思い合っていても、表現しなければすれ違うことがあるのだと知ったばかりだから。  ──開さんが思いを伝えることが苦手なら俺が代わりに言葉にする。お父さんやお母さんが俺の考えの理解に苦しむなら、わかってもらえるまで態度や言葉で示し続ける。
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