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 自分を全てさらけ出すのは怖いし恥ずかしい。でも、それをせずに大切なものを見失う方が、ずっとずっと怖いことだと涼介は知っているから。  そうして行動に表し続けた涼介は、両親からの承諾を得て開を家に招いた。  覚悟を決めたと言っていた開は涼介が惚れ直す程に凛々しく清爽で、涼介の両親や姉はその美しさに見惚れていたし、なによりも開の誠実な人柄に触れ、涙を見せる場面もあったが最後まで感情的にならずに話を聞いてくれた。  まだまだ対話を繰り返して行く必要はあるけれど、突破口は開かれた。  両親は、進学校に通っていた涼介が高卒で就職をしたいと打ち明けた時と同じに「納得がいくようやってみなさい」と言って、二人の同居も許したのだった。 ***  皓斗と野田と別れてからスマートフォンを開く。ニ一時少し過ぎだからちょうど開が仕事を終える頃かもしれないと、涼介はリズミカルにメッセージを入力した。 『お疲れ様です。そろそろ仕事終わりますか? 俺、今、鴨居駅のすぐ近くにいるんですけど開さんは今日はどこで仕事ですか?』   五分ほど待ってみるが既読は付かず、まだ勤務中かな、と思ったところで返信が入った。 『偶然だね。今日はるるぽーとにいるんだ。もう出るところだから、少し顔を見れるかな』  自然に顔が綻ぶ。 『すぐそっちに向かいます』と短く入力して、涼介は開の元へと駆け出した。  徒歩では二十分弱の距離。二人で互いの元へと向かっているから十分足らずで出会えた。  開は控えめに手を上げて涼介に合図するが、顔は陽の光を浴びたように明るく輝いていて、喜びを隠しきれていない。  宮前がいたら「随分素直になって」と笑うことだろう。そんな想像も楽しくて、もちろん開の嬉しそうな顔が心から嬉しくて、往来に人がいるのも厭わず、涼介も笑顔いっぱいで大きく手を振り返した。 「開さん、お疲れ様!」 「うん。涼くんも」 「俺は定時に終わってたよ。さっきまでね、野田と皓斗と合ってた」 「そうなんだ。楽しかった?」  身体が真正面に来るなり、二人の口から次々と言葉が飛び出す。普段から通話やメッセージアプリで何万もの文字を交わし合っているのに、体中から言葉が溢れ出て来て止まらない。   「うん、楽しかった。開さんとのこと、報告して来たんだ」 「そっか。仕事が終わってから直接行ったんだね」  だからスーツなんだ、と言いたげに開の手が涼介の胸元に触れて、襟やネクタイに滑った。  開が愛しげにそうしているのを感じて、涼介は表現しがたい喉の詰まりを覚える。嬉しくて叫びたい、なのに切なくて苦しい……でも、やっぱり嬉しくて。 「会いたかったよ、開さん」  やっと、一番伝えたかった言葉に辿り着く。  途端に、開の頬が桜の花びらみたいに淡く色づいて、口元がふんわりと花開いた。   「僕も」     夏なのに二人の心は薄ピンクの桜で満開だ。   宮前がいたら「バカップルが。早く歩けよ」と言うだろうと思い、二人は同じことを考えている互いをくすりと笑った。  それから、駅構内のカフェでコーヒー一杯分の会話をして、明日の仕事の為に別れを告げる。
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