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今からバスルームに戻るか、いや、それではやる気満々に見えて開に引かれてしまうだろうか、いやいや、でも今夜の開からは匂わせ雰囲気が出ていたじゃないか。いやいやいやいや、でもあの開のことだ。抜き合いで充分にやり終えた感を感じるかもしれない。このあとは互いに手でこすり合って出したら就寝とか充分にあり得る。だとしたらここで大人しく待つのが吉か?
涼介の頭はバスルームで回らなかった分、フル回転した。
「涼くん、お待たせ。……え、裸のままで待ってたの?」
そこに開の声。
視線を向かわせると、すっかりパジャマの上下を身に着けた開が扉を開いて立っていた。
ああ、やはり自分は先走っていたのだ、と涼介は思った。抜き合いもなにも、開はさっきの口淫で「約束を果たした」と思っているのだと。
「すいません、俺、服、自分の部屋にあるのに間違えてこっちに来ちゃった……自分のベッドの方、帰ります」
恋人同士とは言えそれぞれの生活ペースを大事にする為、話し合って互いの自室を持つことにした。涼介が使う部屋には宮前が使っていたベッドがそのままあり、新しい家具は開と宮前が自分達のセレクトショップから選んでプレゼントしてくれた物で、私服もパジャマもそこに入れた。
涼介は肩にかけたままだったバスタオルを腰に巻いて立ち上がろうとした。だが、開が涼介の肩に手を置いてそれを阻む。
「間違えてないよ。先にこのベッドに潜っていたら良かったのに、ってこと」
「え」
バスタオルを奪われ、唇も奪われる。
開もベッドに腰掛け、涼介の横にぴたりと寄り添った。そしてそのまま涼介の背をベッドの頭側の壁にもたれさせて身体を重ねた。
すっかり冷めた涼介の肌にシャワーを終えたばかりの開の体温が移って心地いい。涼介は開の背に手を回してキスに酔いしれた。バーで飲んだ生クリーム入りのカクテルよりもずっとずっと柔らかで甘い。
たっぷり濡れた舌が上下にもつれ合い、時に上顎に当たる。唇の端から互いの唾液が流れるくらいに淫らに唇を開き、求め合った。
次第に開の唇が涼介の身体に移って行く。ちゅ、ちゅる、と音を立てて肌を吸われると、開の中に自分の細胞が入って行くような気がして、涼介は泣きたいくらいの幸せを感じた。
ああ、こんなふうに人は人の身体を受け入れて行くのだと思った。開になら、心も身体も全て差し出せる。
涼介は背中を壁に預けたまま、ベッドの上で半座位になっていた。開は涼介の腰を跨ぐようにして膝立ちをしている。
「開さんのも脱がしていい?」
「いいよ」
「開さんに触っていい?」
「いいよ」
今までと違い、肯定だけが返ってくる。涼介はゆっくりと指を伸ばして開のパジャマのボタンを一つずつ外し、袖を抜いてベッドから落とした。
「開さん、綺麗……」
指先で鎖骨に触れると開の肩が僅かに揺れた。開に習って胸のあいだを吸うと、甘い吐息が落ちて来た。
胸が震えて背筋へ伝わる。ぞくぞく感がうなじへ競り上がり、脳髄が痺れると言う意味を初めて知った。
「こっちも脱がしていい?」
夏物の薄手生地のパジャマは開のものも昂ぶっているんだと教えてくれる。
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