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「やめ……っ。涼くん……!」
勿論、開の声は聞こえたけれど聞こえないふりをした。開の言葉のあいだから漏れる息に熱さを感じて、涼介の頭も腹の下にある欲も熱を持ち始めていた。
しかし。なにかがおかしい。
開が言葉を発しなくなり、漏れる息は確かに熱いが浅く速いものに変化している。涼介の体の下で強張っている華奢な体はいつもの意志ある拒否の硬さとは違い、恐怖に震えて萎縮したような硬さだった。
「……開、さん……? 開さん、ごめん、痛くした? ごめん!」
目線を開の顔に戻し、蒼白さに気づいて咄嗟に開の上半身を抱き上げた。背中をさすり、必死に謝る。
──痛いだけじゃなかったらどうしよう。嫌だったら? 年齢だけか理由じゃなく、俺とするのが本気で嫌でこうなってたら?
「ごめん、開さん。俺、ごめんっ……!」
涼介の心も傷ついている。でも、力でねじ伏せようとした事実に謝るしかできず、涼介は開の背を何度も撫でて謝罪を繰り返した。
次第に開の緊張が解け、息も落ち着いてくる。
「大丈夫、大丈夫だよ。僕こそごめん。悪いのは涼くんじゃないから、謝らないで」
開の手も涼介の背に回り、ギュッと抱き返す。頭を涼介の肩に任せ、甘えるように頬を擦り付けた。
「ほんとに……? でもごめんね。俺、がっついちゃったから……」
涼介があまりに萎れた声で言うものだから、開は居たたまれなくなる。
涼介は悪くない。いや、厳密には誰も悪くない。原因は開の身体にある。
吉田と和解して過去を昇華してなお、十五年もの時を経てなお、身体だけは受けた恐怖を忘れられない。心では大丈夫だと思っているし、開にも愛する人と身体を重ね、肌の温もりを感じたい思いある。でも……。
「涼くん。涼くんは僕と……そうなりたいんだよね?」
「えっ!?」
"そうなりたい"
遠回りな表現だが、開の言うところと涼介の"がっついて"の指すところは同じだ。察しの良い涼介にはすぐに伝わった。
涼介は開の両肩に手を置いて、真正面に顔が合うよう身体を少し離す。
いいの? と聞こうとした。けれど目線を外した開を見て、言葉を変えた。
「そう、だけど……開さんは違うんだね……?」
言いながら心臓の下辺りが縮んだような気がした。
以前宮前に言われたことが頭を過る──本條は心が満たされてると体の欲求が薄くなるんだ。お前といて癒やされてる証拠だ。だから……絶対に焦るなよ。
わかっている。だからこの三年、涼介は昂ぶる気持ちを抑え込んで来た。
亮輔を亡くす以前の開になにがあったのかは未だ知らされていないが、亮輔を亡くしたことで長きに渡り雨ざらしの中にいた開を守る強い傘となり、濡れた心を拭う柔らかいタオルであろうと心がけた──開とは九つ強も年齢が離れているからこそ、幼さを見破られないように、余裕のある「大人」を演じて来た。
でもやはり、涼介はじき二十歳になる若者だ。頭ではそう思っても、年なりの身体の欲求を捨てらるほど大人にはなり切れない。
もしこのままずっと先へ進めなかったらどうなってしまうんだろう。俗世を捨てた僧侶のようになれる気はしない。
「俺……ごめん、開さん。俺は開さんとしたい……」
涼介はまっすぐに開を見た。この話になるのは初めてなのだ。いい格好をして誤魔化して、有耶無耶にしたくない。
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