3/5

144人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 涼介も涼介で以前「叔母さん」と呼びかけて「アタシはオバサンじゃない!」と大目玉を喰らったから同じ轍は踏まないと心していた。  そして涼介が考案した呼び方は。 「お義母さん、これからよろしくお願いします」 「おかあさん!?」  冴子が大きなが目玉を剥く。   「はい! お義母さん!」 「アタシはアンタのお母さんじゃ……いや、本條の籍に入ると言うことはアンタは本條で……アタシの息子……?」 「そうです。俺は本條涼介になるので! お義母さん!」  「そ、そう。……まあ、そう言うことなら。アタシも涼介って呼ばせてもらうわ」 「はい!」  開は涼介の隣に座りながら、(から)のコーヒーカップの中をスプーンでくるくると回す冴子と、人心掌握に長けている涼介を見比べて笑いを噛み殺すのだった。  開と涼介、冴子の三人で早めの昼食を囲んだあとは、亮輔の墓前に報告へ向かった。    墓には既に花が備えられ清掃も行き届いていて、午前中に法要が行われた様子が伝わる。  開と涼介は線香を供え、手を合わせた。涼介は心の中で開を愛し守り抜くと亮輔に誓い、腰を上げる。 「開さん、亮輔さんとゆっくり話してて。俺、先に優汰さんのところに行ってるから」  今日は亮輔の命日だ。今回はタイミングが重なったのはあるが、開が長野に帰る時は、必ずこの日が含まれているのを涼介は知っている。 「うん……ありがとね、涼くん」  涼介は笑顔で頷いて、静かに墓地から出た。   「ただいま、亮輔」  手を合わせていた時はなにも声をかけていなかった。冴子や涼介の家族に切り出した時とは別の緊張感がある。  ──あのね、亮輔。さっき僕と一緒にお参りしてくれた人が恋人で……僕の伴侶になる人なんだ。  君によく似てるでしょ。もし君が生きていたらあんなふうだったかな。  ……君が生きていたら……僕達、どうなっていただろう。    勿論返事は無い。けれどどこからか聞こえて来る気がする。 「そうだなぁ。俺は開の笑う顔が好きだったから、開がいつも笑ってるように、って毎日思ってたんじゃないかな。なぁ、だから笑えよ。開は嬉しい時も眉が下がってんだよ。嬉しい時は思いっきり笑えばいい。そしたら俺も、めちゃめちゃ嬉しいからさ!」    ──亮輔、大丈夫。僕、心から笑えるようになってるよ。最近じゃ自然と笑顔になったりしてるんだ。 「じゃあなんで今泣いてんだよ。ばーか。ほらぁ、開、笑えよ」  ──馬鹿はどっちだよ。亮輔の単純馬鹿。これはね、嬉し泣きって言うの!  「なんだよ、単純馬鹿って! ……まぁいいか。開が幸せならさ!」  現実には亮輔はいない。けれど、亮輔かいたらきっと、こんなふうに話をしただろうと思う。  眉尻を下げ、涙で頬を濡らしながらも開は答えた。  ──ありがとう亮輔。僕は幸せだよ。  亮輔に伝えられた。自分は今、本当に幸せであること。これからも、幸せを紡いで行くこと。   「また、話に来るね」  亮輔が「おう!」と笑う顔が浮かぶ。  開はそっと墓石を撫でて腰を上げた。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加