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広さは全く違うが、俺が長野で住んでいた、あのボロアパートの部屋の中より酷い。
「なんだってこんなことに……」
「ミア、ミア、どこにいるんだい。部屋かい?」
呆然とする俺を横切り、ウィルソン氏はリビングを一旦出てベッドルームの一つに向かった。
だが、目当ての娘の姿はなかったらしく、悲壮な顔で俺のところへ戻って来た。
「ミヤマエ、どうしよう。ミアがいない」
「どうしよう、じゃねーよ。探すんだよ。家から出ていくような子なのか?」
「いや、それはしない。ミアはとても怖がりなんだ」
怖がりだとわかってて娘を一人きりにしたのかよ。最低だ。
「じゃあ家の中にいるんだよ。くまなく探せ」
人んちだから、なんて思うのも時間が勿体無くて、四ベッドルームに四バスルームもある広い家をとにかく探って行く。
とりあえずはリビングにもキッチンにもいなかった。部屋は……。
一つ目の部屋。ここはオフィスルームか。たくさんの書類が積まれ、床にもファイルが散乱している。娘の姿は無い。
次の部屋は夫婦の寝室のようだ。こちらも荒れてはいないが換気も掃除もされていない湿っぽい様子がある。
「ミア、ミア?」
各バスルームを探しているウィルソン氏の声がする。あの様子じゃバスルームにもいないのだろう。
寝室に足を踏み入れると奥にクローゼットルームの扉が見えた。そこに進み扉を開ける。芸能人の邸宅訪問で見るような大量の服や靴、バッグ。大半は女性の……ミセスジュリアの物だろう。荒れた室内を見て、一瞬ミセスが出ていったのかと思ったが、これだけ荷物があるなら思い違いか。
「うん?」
たくさんのドレスが吊るされている一番奥。そこにだけジュリアの様々な服が幾重にも重なって積まれ、山になっている。
もしかして、と思って服の山肌を1枚ずつ剥ぐ。
──やっぱり……!
「ミア……?」
小さな女の子が、服を鳥の巣のようにして、その中心で丸くなって眠っていた。
つい、ウィルソン氏が呼んでいた名前が口から出て、抱きかかえてしまう──だって、昔の俺も同じようにしていたから、自分と重ねてしまったんだ。
「うぅん……」
ミアをがぴくり、と動き、俺の腕の中で目を開けた。
「!?」
ミアの瞳が倍大きくなる。口がぽかんと開いて、大きく息を吸った。それから、三秒の沈黙ののち。
「やぁああぁぁぁぁあ!」
叫びとも喚きとも言える大音量と濁流のような涙、そして、大暴れする手足。
聞きつけたウィルソン氏が走ってクローゼットルームに来て、俺の隣に座った。
「ミア、ダディが帰ったよ。大丈夫、ミア、大丈夫だ」
ウィルソン氏は語りかけるが、俺の隣に座っているだけで腕も伸ばさない。
「なにやってんだよ、早く抱きしめてやれよ!」
小さな手足に殴られ放題だったが、なんとか投げ捨てるのを留まったミアをウィルソン氏に譲り渡す。
ウィルソン氏は戸惑いながらもミアを両腕で包み、胸の中に閉じ込めた。
三十分はかかったが、ミアが落ち着き、俺達は片付いていないダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。
「……で、なんでこんことになってるか、俺には聞く権利はある?」
俺が問うと、ウィルソン氏はきまりが悪そうでも「ああ、そうだね」と頷いた。
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