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そして俺は、ミセスジュリアが一ヶ月前に脳出血により急死していたことを知った。
ジュリアの死後、ハウスキーパーやシッター、ナニーを要請したが、四歳になっても人見知りの激しいミアと折り合いが悪かったこと、ウィルソン氏自身は実質経営者であったジュリアが抜けた会社の穴を埋める為、日々仕事に時間を費やしたこと。それでも育児だけでも、と気を張り詰めて来た結果、どれもこれも上手く回らなくなったことも。
昨夜はあまりの心身の疲れに、眠ったミアを置いて一人外に出てつい酒を買ってしまい、歩きながら口にして酔って記憶を失くしてしまったのだと言う。
「そうだったのか……」
「だが全て言い訳だ。ミアを一人にしていい理由なんて、ひとつも存在しないのに……だから怖くて。もしミアになにかあったらと思うと一人で家に帰る勇気が無くて君を道連れにしてしまったんだ。済まなかった、ミヤマエ。そしてミア。……ごめんね」
ウィルソン氏が膝に跨らせているミアに頬を寄せると、ミアは彼の首にしがみついた。ウィルソン氏がミアを抱き返す。その腕は少し震えている。
だから……。
だから俺は席を立ち、ミアを抱いているウィルソン氏を腕で包んだ。
きっと彼も、誰かに抱きしめて欲しいと思っているはずだと思ったんだ。
寂しい時、辛い時、苦しい時、誰かが抱きしめてくれると慰められる。本條がそうだったように。幼い頃の俺がそれを求めたように。
ウィルソン氏は目を閉じ、俺に少しの体重を預けた。ミアもまた、ウィルソン氏に抱かれているからだろうか、俺に怯える様子もなく、穏やかな表情で目を閉じていた。
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