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「君のところのパーティーでだよ。君、いただろう? 会長と"縁あって……"みたいな話をしていたところを見かけたよ」
確かにその会話はした。ニューヨークに来てから会長に合うのは初めてで、挨拶をしたんだ。
「そうだけど、でも……あんたとは話してもないのに」
来賓含め三百人規模のパーティーだ。珍しい東洋人とは言え、彼の目に留まる要素なんて……。
起業家の目から見て光る要素でもあるのかも、なんて……それこそウィルソン氏となんらかの「縁」があるのかも、なんて……俺らしくもなく、期待に似た淡い気持ちが胸で踊った。
でも、違った。
「僕の特技なんだ。その場にいる人の名や顔、肩書きを瞬時に覚えられる。あの日のパーティーの出席者も全て頭に入ってるよ」
「へぇ……そう、なんだ。凄いね」
肩透かし。なんとなく残念で、ありふれた感想しか出てこない。
「でもね、これしか取り柄は無いんだ。僕はなにをやってもいつも劣等生で……ジュリアはね、本当に才能豊かな人だった。会社も家も、彼女が全て取り仕切っていたんだ。でも、彼女には一つだけハンデがあってね。彼女は相貌失認だったんだ」
相貌失認とは、他人の顔や名前を覚えられない脳機能障害だとウィルソン氏は教えてくれた。
「僕たちは互いを補い会えるベストパートナーだと彼女は言ってくれた。こんな、なにも出来ない僕にね……」
「ウィルソンさん……」
かける言葉が見つからず、肩に手を置く。ウィルソン氏の膝の上で身体を落ち着かせていたミアは膝を立たせてウィルソン氏と同じ目線になり、よしよし、と彼の頭を撫でた。
「ありがとう。ミア。……さあ、お空のマミィを心配させないよう、お片付けをしようか。手伝ってくれるかい?」
「うん!」
「ミヤマエも。頼りにしてるよ。でもそうだ、掃除の前にまずは朝食だね。それから警察。帰ってから掃除に洗濯をしながらミヤマエの部屋を作ろう。ね、それでいいかな?」
「うっ……」
ウィルソン家に巻き込まれている感じは否めないけど、しばらくこの家に世話になるのだから頷かないわけにはいかない。
「うん……オッケー……」
早いうちに部屋を見つけて出て行こう。そう決意しながら頷き、ウィルソン氏と一緒にキッチンへ向かった。
────冷蔵庫の中にも食品庫の中にも食べられる物はほとんどなかったし、ウィルソン氏は料理が全くできなかったのだけれど。
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