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 遊びてぇ。イケメンイケ胸板イケ腹筋と戯れてぇ。  そう思い始めてから二週は経つが、行動できていない。  ここに置いてもらう代わりに日中はミアと過ごしているのもあるけれど、夜は夜でデザインに没頭しているせいだ。  ジェイが用意してくれた部屋は居心地最高だった。ワークデスクも椅子も、パソコンも照明一つでも。まるで自分がトップデザイナーになったような錯覚を起こす。椅子を回転させて後ろを見ればクッションふかふかのベッドがあって、クローゼットの中には着心地のいい上質な服。  すぐ出て行くからいい、って言ったのに「ずっといればいいじゃない」だなんて。  こんな豪華な暮らしを与えられたら、普通はシンデレラストーリーを夢見ちゃうよ?  二つ目のデザインに行き詰まり、気分転換に明るい声がするリビングルームに顔を出す。ジェイとミアはソファの上でくすぐり合いをしていた。  二人が遊んでいるソファの横のシングルソファに腰を落とすと、すぐにジェイの手が伸びて俺をくすぐり合いに巻き込んだ。 「ミア、新しい目標発見! ヒューを陥落させよ!」 「イエス! ダディ!」 「わ、ちょっと……!」  寝そべったジェイの身体に重なるようにして倒れ、腰の上にはテンションが高くなったミアが乗って、俺はサンドイッチの具状態。その体勢でミアがくすぐり、ジェイが俺を固定するものだから、薄いTシャツ一枚のジェイに俺の身体が密着する。  あー、ジェイっていい身体してんだよなぁ。運動もしないくせに、この胸筋。俺が見境のない男じゃなくて良かったね。下半身も密着してるしさ、いい具合にあったかい肌してるしさ。俺じゃなきゃ発情してるかもよ。 「ヒュー? くすぐったくないの?」  俺の腰の上に馬乗りのミアが、くすぐる手を止めて不思議そうな声を出す。  俺がジェイに突っ伏したまま反応しないからだ。  そ。俺はこそばゆいのには強いんだ。て言うか、痛みにも弱くない。多分さ、小さいときから身体をたくさんぶたれて、中学生からは多くの客を相手にしたから、刺激に麻痺してるのかもしれないね。 「ヒュー、どうした? 眠いかい?」  今度はジェイが優しく言って、髪の中に手を入れて撫でてくれる。ミアにするみたいに優しく。 「ん……」  眠いわけじゃない。ジェイの体温が気持ち良くて、ミアの子供体温が暖かくて……目や喉が熱くなるんだ。 「ヒュー?」 「ちょっとだけこのままいさせて」  涙声がばれないように、ジェイの胸板に顔を埋めたまま声を出した。  俺、初めてなんだ。家族の中に入り込むの。愛情溢れる親子のリビングってこんなに明るいんだね。愛情深い父親や愛されて育った子供って、体温まで気持ちいいんだね。  俺は本当の家族じゃないけれど、ジェイが優しく接してくれて、人見知りのミアが少しだけ俺に心を許してくれて。  俺、ここの家族になったような錯覚を起こしてしまうんだ。早くここから出ていかなきゃと思うのに、居心地が良すぎて部屋を全く探していないんだ。
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