4/5

144人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 意味を持つと一気に生々しく感じて、涼介は顔を赤くした。  高校生の頃、同性同士で付き合うようになった親友がいる。高校一、二年生とクラスメートだった望月皓斗だが、その相手もまた、涼介の中学からの友人だった。  彼らには涼介の思い人が男性(かい)だと伝えていたこともあり、皓斗からは同性同士に関する恋愛相談を受けることもあった。時には性行為のことも──なあ、涼介ってどっち? あれってどっちが男役でどっちが女役とか、どうやって決めんの?  あの時自分はなんと答えたか。  ──そうだ、俺はあの時……。  あの時涼介は「開さんは年上だから任せてるけど、その場の流れで決めたり……」と、誤魔化した。  実際は経験は全く無く、見栄を張っただけだからそう言ってしまった。本当のことなんか涼介にも見当がつかなくて……でも、想像は何度もした。  自分から開に激しいキスをして、全身をくまなく愛撫する。すると開は顔を赤くして恥じらいながらも身体を変化させ、最後には涼介を受け入れる。そんな想像を、何度も何度も。  開がソファで安心しきって眠っていた、ついさっきでも。 「開さん、俺は……」 「ごめん、僕には無理なんだ」  涼介が言う前に開が言葉を被せた。 「開さん?」    開は涼介の上からソファに移り、涼介の腕を引いて隣同士に座らせた。 「涼くん、僕の身体は人の熱を受け入れることをどうしても拒絶するんだ。多分もう、自分が人にそうすることもできないかもしれない……怖いんだ」  宮前とは長いあいだ互いに自分自身を投影し合い慰め合ってきた。宮前が受け入れ開が受けとめてもらう側だった。だが、開が亮輔を弔え、新しい恋を自覚したことで悲しさや辛さから開放されると、自然と行為は無くなった。  そして、皮肉にもそうなってから気づいたのだ。心は満ち足りてなにも怖いものはない筈なのに、身体は恐怖を覚えているんだと。    ねじ伏せられること、組み敷かれること。強い力で身体の自由を奪われること。  宮前は絶対にしなかった。だから気づかなかったのか、亮輔を喪った悲しみが少年期の恐怖を超えていたからなのか。おそらくどちらでもあったのだろうと開は思う。 「これまで一線を超えなかったのは君がまだ未成年だから、って言うのも本当だよ。でも、盾にもしていたんだと思う。そうすることで安心できる環境を守りたかった……君といる穏やかな時間を失いたくなかった」  もう愛する人との別れを経験したくない。涼介と一緒にいたい。けれど、性別の壁を超えて来てくれたノーマルセクシュアリティの涼介の望むことを形にしてやれないことも、生真面目な開には心苦しい。 「だから……」  言葉無く、眉根を寄せて開を見つめているだけの涼介に開は続けた。 「させてあげることもすることもできないけど、これなら……」  開の両手が涼介のジーンズのジッパーに伸びる。ジジッと音がして下着が覗くと、開はウエストゴム部分に手をかけ、下にずらした。 「!? か、か、開さん!?」
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加