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 親愛と恋心の境目はどこからだろう。   「ヒュー、おはよう」 「おはよ。おっと、それはノーサンキュー」  ジェイが俺の頬にキスしようとしたのを、体をずらして避ける。 「おや、寂しいな、ニホンジンは本当にシャイだね」 「ダディ、ミアはする! ダディおはよう!」 「ミア〜おはよう、今日も愛してるよ」  朝食のサラダにドレッシングをかける俺の横で、ジェイとミアが熱烈なハグ付きのキスを交わした。  ジェイにはミアも俺も同じなんだよな──俺がジェイに父性を見ているように。  ただ、五ヶ月前にリバティアイランドに行った日以来、俺の調子は徐々に狂っている。ジェイのスキンシップにいちいち緊張して身構えてしまったり、実際に()れられると胸が騒がしく踊りだしたりして……。 「ヒュー、ごはん早く食べようよ」 「ん。ああ、うん」  既にダイニングチェアに座っているミアに言われて、考え込んでいた自分に気づく。  そうだ、早くしないと。ミアはキンダーガーテン生になったから出発が早いし、俺も今日は「新進アーティストの競演」の開催日が週末に迫っているから、九時までに本店にディスプレイ案の確認をしに行くのだ。 「ミア、食べたらすぐに服を着替えて。うさぎのプリントのシャツ、部屋に置いてあっただろう?」 「うさぎ、ルーシーも着てたからもうイヤ。ほかのにして。それとまだ一人じゃお着替えできないの。ヒュー手伝って」  ベーコンエッグマフィンを頬張りながら言うミア。ミアは最近、体の大きさも態度も成長している。  ここで諭してやってもいいが、それでは朝の貴重な時間をロスする羽目になる。子供とは、特に幼い子供とはこう言うものなのだ。多分。  懐かれていると言うよりは使われている感じもしなくはないが、俺は仙人のように心を穏やかにしてミアを手伝ってやった。 「ちょうちょのと……これにピンクのふわふわスカートなら可愛いだろ? ソックスはストライプのニーハイにしよう」 「わぁ、かわいい。ミアがちょうちょさんになったみたい! ダディ、見て!」  選び直してやったコーディネートに満足したらしいミアは、ぴょんぴょん飛び跳ねながらジェイに抱きつく。 「良かったねぇ、ミア。ヒューのセンスは最高だね。でも、ダディのところに来る前にすることがあるだろう? わがまま言った甘えんぼお姫様はどうすべきかな?」  ジェイはミアの頭を撫でながら聞いた。ミアが片膝立ちしている俺に振り向く。 「……ヒュー、ありがとう。ミア、いっつもありがとうって思ってるよ」  小さな手が首に回って、柔らかい頬が寄った。ちゅ、と音がして唇が触れて、離れる。  ──くっ……そかわいいな、おい。これが子育ての醍醐味か。普段のちょっぴり腹が立つ仕打ちも許せてしまう。 「よし、ミア。いい子だ。ダディからキスのプレゼントだよ!」 「わぁい!」  また、目の前で熱いハグとキスが交わされる。  ん? まさかミア、ジェイからのキス目当てだったっとか、無いよな?  いつまでもキスを交わす二人を呆れ顔で見ていると、ジェイがニヤッと笑ってしゃがみ、俺の左頬に顔を寄せた。  次の瞬間、頬にはっきりとした唇の感触が当たる。 「ジェ……!」 「ミアもする!」
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