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「違う……ジェイはゲイじゃない。それに、ジュリアを今でも愛してる……子供だっているんだ」  そう。ミアがいる。もし、ミアがそんなゴシップを耳にすることがあったら、どんなに嫌な気持ちになるか。  俺、やっぱり出てきて正解だ。家族でもないのに家族の顔をしてジェイに恋慕して……ジェイを誘惑しようとしたハウスキーパーたちと変わらない。ミアを裏切っているのと同じだ。 「じゃ、ミヤマエの片思いってやつか。それで辛くなって家を出て来たんだ? ニホンのエンカみたいだな。泣かせるねぇ〜」  エンカ、が「演歌」だと気づくのにしばらくかかった。 「なんでレオが演歌なんか知ってんだよ。俺でも良く知らないのに」 「地元の店舗にいた時に、ハルミ・イタモトってエンカカシュが来てCDくれたんだよ。 ♪ワタシガスキナラ、ソレデイイノ、アナタノソバニイラレナクテモ〜♪ って」  あ、それなら聞いたことがある。でも、滅茶苦茶な音程なもんだから笑いがこみ上げた。レオも一緒にははは、と笑う。 「眉間の皺、取れたじゃん。ミヤマエ 、笑ってなよ。君はどんな顔も素敵だけど、余裕のある笑顔の方が小悪魔的で、より魅力的だぜ」  レオの人差し指が俺の眉間に触れた。顔が近づき、唇が重なる。  レオは最初から舌を挿し入れ、俺の舌にじゃれついた。 「これは部屋のシェア代。どこでも好きに使って。ただし、早めに気持ちの整理はつけな。俺が君と次のステップに進みたくなるまでが期限だ」  最後に、音を立てて唇を吸われる。ジョークか本気か、釘を刺すのを忘れないのがレオらしい。 「ああ、ありがとう……」  レオのキスは、情熱的なのに独りよがりじゃなくて上手かった。でも、でもさ、ただそれだけ。他になにも感じない。  ジェイがジュリアと俺を間違えてしたフレンチ・キスは心臓が跳ねた。  ジェイが頬にくれたキスは息を苦しくさせた。  眉間に触れた指でさえ──胸を締め付け、もっともっと触れてほしいと思わせた。  過去、付き合った人はたくさんいたし、遊びのキスもした。本條との慰め合いのキスも。  でも、ジェイとのキスはそのどれとも違った。  ──そっか、俺、初めてホントの恋をしていたんだね。  *** 「また部屋を変わったの? 大丈夫なの? ねえ、それよりもっとこまめに連絡してよ。僕や涼くんがメッセージを送っても、いつもうん、とか変わりない、とかスタンプばっかりで要領を得ないよ」  オフィスに行きがてら、本條に電話をした。昨夜本條の顔を思い出したから、久しぶりに声が聞きたいなと思ったのだ。 「ごめんって。俺は大丈夫。子供じゃないんだし今までも一人で生きて来てるんだから平気だって」  半笑いで言うと、通話口が静かになった。  電話、切れちゃったか?  「おーい、本條、繋がってる?」 「……繋がってるよ」  良かった。けど、なんか声が不貞腐れてる。 「本條、どうし」 「一人じゃないでしょ。僕たち一六歳の頃から一緒にいるのに。なんで宮前の中で僕がいなかったことになってるのさ」  あらま。なにを言うかと思えば。でも、やっぱ俺達、半身だな。俺が腐ってれば本條も不貞腐れて。俺が誰にも必要とされてないなーって悲観してたら、本條が俺の中の本條の居場所を確認して。
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