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「本條とは二人で一人だから一人ってこと」 「それ、適当に言ってない? あのさ、宮前。今は僕だけじゃなく涼くんも宮前を心配してるし、吉田や冴子さんだって会うたびに宮前のこと聞いてくれるんだからね? ちょくちょく連絡してよ? 宮前、聞いてる?」  弱ってる心にちょっと響いちゃうね。存在価値があるかどうかは別として、俺の存在を確認してくれる人たちがいるってことに。  いつまでも腐ってられないな。   「……うん、聞いてるよ。サンキュ、本條。ごめん、もうオフィスに着くから切るよ」 「わかった。また連絡してね」  通話を切り、スマートフォンをバッグにしまった。  オフィスのドア前で小さく深呼吸をする。今日は展示した商品に対する反応を聞きに来たのだ。  本店での販売から約三週間。若手デザイナーの作品とは言え、いずれにもブランドの銘打ちをした一点物だ。レオのように既に名前が売れているデザイナーもいるし、贔屓の客にはインビテーションカードも届けている。来客者数は多いはずだ。  どうか、どれかが誰かの目にとまっていてくれますように。 「やあ、ミヤマエ、座って」  迎えてくれたのは商品開発部のディレクターだ。簡単な挨拶が済むとすぐにタブレットの画面が開かれた。 「君のジュエリー、販売開始後すぐに売れているね」   「え!?」  本当に?   画面を見ると、たしかに出品の三点全てに「sold」チェックがついていた。 「今回、視点が良かったのかもしれないね。メンズジュエリーを出したのはミヤマエだけだから」  そうなのだ。俺が今回出したのは男性向けのジュエリーだ。ピンブローチにタイピン、カフリンクス。  その全てにタンザナイトを使った。ジェイとミアの瞳と同じ、深い蒼の石を。 「マテリアルの質量比からも価格帯を抑えてあるから求めやすかったのだろう。それでも三点全て即日で売れているのだから、立派なものだ。商品化の検討材料になると思うよ。引き続き我がブランドで頑張ってくれるね」 「……はい……!」  興奮が背筋にせり上がった。  やった……! まだこのブランドで、ニューヨークでやれる……!   俺が生み出した光を誰かに届けたい。そこから始まった思いがこのニューヨークでも初めて形になった。  今回の三商品は、ウィルソン家で貰った幸せの気持ちを込めたものだ。身に付ける人にハッピーが繋がるように。深い蒼が、癒やしや活力になるように。  デザインモチーフには日本にしか咲かない福寿草を取り入れた。福寿草の花言葉は「幸せを招く・永久的な幸福」だ。  ──そうだ。デザインを作っていた期間、俺はずっと幸せだった。ジェイとはああなってしまったけど、過ごした日々が消えるわけじゃない。  ジェイが見ている俺は本当の俺じゃないなんて思ったけど、あれもちゃんと「俺自身」のはずだ。演技じゃない。全部心のままに動いていた「新しい俺」だ。  いつかまた、ジェイやミアに出会えることがあれば胸を張って言おう。 「あなた達に出会えた幸せがこの作品を作らせてくれたんだ」と。    ──そして、そんな日が来たら、俺が作った光をプレゼントできればいいのに。
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