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 一月   十二月に本格商品化された俺のメンズシリーズは、クリスマスシーズンを味方につけて売れ行きも好調だった。  石をタンザナイトではなく、各月の誕生石に置き換えたこともまた、販売促進にプラスとなった。 「今回はミヤマエに完敗だな」  レオの部屋で、高級ワインで乾杯する。  新進デザイナー企画が十ニ月末を持って終了したため、ささやかなお疲れ様会だ。 「なに言ってるんだ。レオのだって結局三点とも売れたじゃん」 「まあそうだけどさ。派手さを求めすぎてる。もう少しブランドイメージに沿って、って上からの評価付きだからね。俺の感性がわからないなんて、ナンセンスだよな」  肩をすくめてからグラスのワインを飲み干し、おかわりを注げとばかりにグラスを俺に差し出すレオ。  俺は「はいはい」と言ってボトルを両手で持って傾けた。 「ミヤマエ、これはジェラシーであり、祝いの言葉でもある」 「?」  突然に話しを変えたレオは、俺がせっかく注いでやったワインのグラスをテーブルに置いた。 「君の企画商品、購入したのはジェイデン・ウィルソンだ」 「……は? なにを……」 「GODISCO社が上場したのは知ってるな? その関係で、昨年末はウィルソン氏がネットニュースなんかでも良く取り上げられてた。……その様子じゃ見てないな。あのな、俺たちみたいな、世界に商品を出していくデザイナーは経済には精通しておくべきだぞ」  レオはやれやれ、とため息をつくと、自分のバッグからタブレットを出して操作し、俺に向けた。 「ほら、見ろよ」  レオが開いてくれた画面にはスーツ姿のジェイの立ち姿が掲載されていた。新しく上場した企業の特集が組まれているのだ。  ジェイ……久しぶりだな。変わってない。ごはん、ちゃんと食べてるみたいだ。良かった……。 「……あ……?」  スクロールした下の画面の写真。胸から上が大きく写っていて、なにかを説明しているのだろう。顔の位置で右手が開かれている。 「このカフス、ミヤマエのだろ? ピンブローチも」  レオが画面を指を指す前にわかった。  ジェイの袖の内側に、蒼い石がついた福寿草モチーフのカフリンクス。スーツのフラワーホールにも、福寿草のピンブローチ。  間違いなく、俺がデザインしたものだ。 「ほら。こっちも見ろよ。ウィルソン氏はルックスがいいから、ファッションが注目されたりもするんだ」  レオが画面を操作した先、全世界的なシェアを誇るSNSの画面には、ジェイがつけているアクセサリーを特定した投稿や、同じものを購入したいとする投稿が多数連なっていた。 「……え、待って。ブランドネームだけじゃなく俺の名前も出てるんだけど」 「今回のアクセサリーは一点物だけど、お客に出回ったインビテーションカードからブランドとデザイナーの名前が特定されたみたいだな。もともとが即日ソールドって言うのもあるけど、SNSで広まって、ブランドに問い合わせが多数あったんだろ。それでクリスマスに合わせて早々に売り出したんだ」  全然知らなかった。新聞には目を通すけど、ネットニュースや、特にSNS系は開くことがないから……でも……。 「じゃあ、ジェイが買わなかったら今の状況は無いってことじゃないか?」
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