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 ジェイが買わなければ誰にも買われなかった可能性もあるし、買われていても外国からの一般旅行者ならSNSに載ることもなく、話題にはならなかったんじゃないか?   「それは否定はしないな。でも、例えばウィルソン氏が他のアクセサリーをつけていても同じ結果になったとは限らない。このデザインは俺も認めてる。素晴らしい品と優しさがあるよ。だから見た人たちの購入意欲を誘ったし、本部も商品化したんだ。ウィルソン氏はトリガーだな」 「でも、純粋に俺だけの資質で売れたわけじゃ無いってことだろ……ジェイもどういうつもりでこれを購入して身につけてるんだ……」  戸惑う俺の言葉を聞いて、レオが大げさなため息をついた。 「あのなあ。売れるやつはそう言う"運"を持ってるんだよ。それ含めて才能なんだから自信を持ってりゃいいのさ。だいたいあのウィルソン氏と家族同然に暮らしていたことが既に強運だ。運命だ!」 「運命……」  "君との出会いは運命だ"  そう言って微笑んだジェイの顔が浮かぶ。 「そ、運命。……てなわけで」  ジェイへの思いにふけっていた俺からタブレットを取り、レオはニッコリと笑った。 「一週間以内にここから出ていってくれ」 「は? なんでだよ」 「もうたくさんなんだ。部屋を好きに使っていいとは言ったけど、薄着でウロウロするわ、オールヌードで寝るわ……君は男を誘うフェロモンがある自覚をもっと持つべきだ。それに、俺は君に惚れてると言っただろ。拷問なんだよ。このままだと俺は発情しておかしくなるよ!」  レオはあれこれ身振り手振りをつけながら嘆いた。  またそれ? そりゃ、あれからも何度か誘いを受けたことはある。でも、全然本気で言ってる感じじゃなかったじゃん。それに……。 「全裸で寝てるところなんか見せてないだろ! 夜中に夜這いにでも来たのかよ!?」  呆気に取られている俺をよそに、レオは畳み掛ける。 「うるせー。四ヶ月近く住まわせてやったんだから小さいこと言うな。ともかく、そう言うことだから出てけ。今や人気デザイナーのミヤマエならエージェントがすぐに部屋を用意するだろ? なんならウィルソン氏のところへ行けばいい。……なあ、それでさ、聞いてこいよ。なんでミヤマエの作品を持ってるんだよ、って」  最後には諭すように、そのくせ暖かさを含んだ声色になった。  レオはきっと、俺の背を押してくれているんだ。 「うん……サンキュ、レオ」 「よせよ、こっちは厄介払いができてスッキリさ。やっと引っ掛けた子を連れ込めるぜ」  レオは口の端を上げて笑って、ぬるくなっただろうワインを飲み干した。    ***  ジェイに会う心つもりをしたものの、再びウィルソン家に迎え入れて貰えるわけはない。ジュエリーを買ってくれたのだって、一人で頑張る俺への餞別変わりかもしれない。  エージェントも、レオが言うように部屋を探してはくれるだろうが、希望に見合う部屋がこの一週間で見つかるか……。  卓上カレンダーとにらめっこしてしまう。 「あ……」  意識していなかった今日の日付を見る。  ──今日はジェイを拾った日だ。
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