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 ジェイはそんな俺を宥めるように背を撫で、唇を離してしまった。 「や……もっと。ジェイ、もっとして」  足りないよ。お願い。このキスの意味が俺の思い違いじゃないのなら、俺を離さないで。  我慢できず、自分からジェイの唇を求めてぐいぐい押しつける。 「君は本当に……。まだ全部話せてないんだ。煽らないで」  ジェイは困り顔をしながら、触れるだけの優しいキスを目頭や鼻に落とし続け、横抱きにしてくれた。  暖かくてたくましい胸に包まれ、欲情が慕情へと移る。 「ヒュー、聞いてくれるね? これが答えだ。……僕もゲイで、君を愛してる。無鉄砲だけど、僕は君に思いを伝えて、なんとか振り向いてもらうつもりでいたんだ」  二度目の告白に、胸がきゅ、と縮む。でも……。 「……でも、ジュリアは? ミアは……」  ジェイが俺へ向けてくれる気持ちは伝わったし疑えない。けれど、ゲイだからと言われても、すぐに納得できるものでもない。 「ジュリアのことを愛してるのは本当だ。ミアも間違いなくジュリアと僕の愛の証だ。ただね……君は信じてくれるかな。ジュリアと僕にあったのは恋愛感情ではなく、純粋な親愛だった。  母親になじられる日々に自信を失い、なに一つ満足にできなくなった僕をジュリアが支え、相貌失認のために家族とも周囲とも上手くやれないジュリアのそばには僕がいて……前にも言ったけど、欠けたものを二人で補うような関係だった。信じられないかもしれないけど、そこに性愛は無く、僕たちは互いを魂の片割れだと思っていたんだ」  自分の話かと、思った。その繋がりを、俺は良く知っている。  ジェイにとってのジュリアは、きっと俺にとっての本條だ。 「信じるよ……」    俺が言うと、ジェイは口元を綻ばせて続けた。 「ただ、僕たちは親に恵まれなかった分、家族への憧れが強くてね。会社を設立する目標とは別に、いつか家庭を持ち、子供を愛情いっぱいに育てたいという同じ夢があったんだ。でも僕はゲイだし、彼女は相貌失認で恋に臆病で……だから僕たち、話し合って人口受精を選択したんだ」 「人口受精……」 「うん。それで、もし授かれたら結婚しよう、家族になろう、って。そして……幸運にも一度の試みでミアが生まれ、僕たちは家族になった。体の繋がりはないけど魂は誰よりも強く繋がってる。とても幸せだったよ」  ジェイの胸板にもたれながら聞き、室内に目線を移す。飾り棚には二つのウィルソン家の家族写真。  この家にはどの部屋にもそこかしこにそれがあって、ここに来てからずっと、俺も「家族の暖かさ」を感じている。 「でもね、ヒュー。僕は君に出会ってしまったんだ」  ジェイが俺の眉間にキスをした。顔を見上げると、ちゅ、と音をたてて唇も吸われる。 「君の社のパーティーの日、僕は会話もしていない君に一目惚れをしたんだよ」  「えっ……? 嘘……」 「嘘なんかつくもんか。パーティー会場で、君を見つけた時、なんて可憐で可愛い東洋人なんだろうって思ったよ。僕の理想を詰め込んだような人だと思った」   「絶対嘘じゃん……俺なんか……」  チビで地味で痩せてて。二十代前半までなら、まだ売れっ子男娼の名残もあったかもしれないけど……。 「君はもう少し自分の魅力に自覚を持った方がいいね。二度目に会った朝もあんな姿で他人の前に立つなんて、襲われても文句は言えないよ!」
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