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②
ニューヨーク時間午前一時半前。
サイレントモードにし忘れたスマートフォンの通知音に寝入りばなを邪魔された宮前は、しかめっ面で画面を確認して二通の通知に気付いた。
一通はメッセージアプリのポップアップ通知。送信してきたのは開だ。
『夜中にごめん。明日都合のいい時間に連絡が欲しい。こっちは明日も休みだからいつでも大丈夫』
もう一通は通話通知。かけてきているのは涼介だ。
「お前なあ……今何時だと思ってるんだ」
「こっちがニ時過ぎなんで、そっちは一時半くらいですよね」
「そう。夜中のな。そっちとは半日違うっていい加減覚えてるよな?」
「どうせいつも一時過ぎまで起きてるじゃないですか」
抜け抜けと言う涼介にため息をつきつつも、宮前にとって可愛い弟分のどことなくしょげた声と、ほぼ同時に送信されて来たであろう開からのメッセージとの相関性を察し、ベッドから上半身を起こした。
「で、なに? とうとう本條に手ぇ出したとか? そんで拒否られて落ちてるとかそう言う感じ?」
半分は揶揄いだか、半分は当てに行った。
言われた涼介は黙ってしまい、宮前は心のなかで「当たり」と言った。
「まあな、お前の気持ちはわかるよ。いい感じで付き合ってるんだし、もう付き合って三年だし、先に進みたくもなるよな」
若いんだしな、は省いておく。
「でもほら、お前ももうすぐ誕生日じゃん。そしたら本條も考え出すんじゃないか? もうちょっとの辛抱だよ」
──そうそう。激しいニブチン、永遠に思春期の本條だって流石に動くだろ。
金髪のワンレングスをかき上げ、宮前は明るめの声で言ってやった。だが涼介は押し黙ったままで反応が無い。
「おい、聞いてるか? 涼介」
「怖いって。開さんが」
「はん?」
ようやく声が聞こえたと思ったら、消え入りそうな声。
「なんだって? 怖いって言った? なにが?」
「開さん、されるのもするのも怖いって。俺が開さんを押し倒したら凄く青ざめて……なのに、その……俺の、を咥え……ようとしてくれて……でもそれも凄く辛そうだったんだよ? なんかもう、俺自体が嫌なんじゃないかって思って。でも俺といたいって言うし……わかんなくなって逃げて来ちゃった……今頭ン中、滅茶苦茶」
今度は宮前が言葉を失くす。
頭の中に、身体を震わせて過去の事件を語る高校生の開の姿が浮かんだ。
永遠の思春期だなんて思っていても、隣にいて成長する開を見てきたつもりだ。
「饗宴」を読んで事件を俯瞰的に見ることができるようになり、冴子や涼介に支えられて亮輔の死を乗り越え、マイノリティである自分を認めた開は、もうすっかり過去を昇華したのだと安心していたのに、まだあの頃まま震えている。
──そうか、それでメッセージを送ってきたんだな。そうだよな、あんなことがあってきれいさっぱり忘れるなんて、そんな都合のいい話、無いよな。
「……話はわかった。なぁ、涼介。俺はさ、それでもお前がその理由を本條に詰め寄って聞かなかったこと、凄いと思う。お前は本当に本條に相応しい男だよ」
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