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「……ミアには、パパが二人になるってこと!」
「あ……」
俺とジェイは互いの顔を見て、またミアに顔を戻した。それからジェイがミアの頬にキスをして、ミアがキスを返して、今度は二人が俺の頬にキスをした。
「わっ……! くすぐったいって、二人とも!」
幸せと言う名のキスがたくさん降ってくる。
──なあ、本條。信じられる? この俺に家族ができて、その上娘まで。俺が父親になるなんて、誰が想像しただろう。
***
「さて、そろそろ寝るか……」
日付け変更時間を一時間は過ぎた頃、新しいアクセサリーのデザイン案に目処が付き、デスクのランプを消した。
こんなふうに仕事に集中したい時は、俺のオフィスルームをそのままにしていてくれたジェイに感謝しながら、この部屋のベッドで眠ることにしている。
でも、今日はジェイとミアとニューアムステルダム劇場に行く約束をしているし、そのあとはチルドレンズ ミュージアムにも行く。このデザインの進み具合なら、次の夜にはジェイとの寝室にも戻れそうだ。
充足感のままベッドに入るとすぐに眠気が訪れた。なのに、サイレントにし忘れたスマートフォンが着信を知らせる。
ああ、もう、俺は寝たいんだ。誰だよ……ん? 涼介から電話に、本條からはメッセージ? 二人して同じタイミングとか。
これは相手をしないわけにはいかないな。
そうして、俺はそれぞれ二人と話しをし、ようやく三時前にベッドランプを消した。
──あいつらすぐに仲直りするだろう。近いうちに涼介の悲願も叶いそうな気がする……そういや、涼介って、タチ・ネコどっちになるんだろう……まあ、どっちでも、愛した人となら幸せな時間を持てるに違いない。
二人の幸せな時間を想像すると急にジェイが恋しくなった。ベッドを降り、こっそりとジェイの部屋に入る。
消灯台の足元ランプが青く光っていて、薄暗いけれど部屋の様子は見えた。隅にあるハンガー掛けにはジェイが明日着ていく洋服がかかっている。
俺はその洋服を愛しく思って撫でた。シャツには福寿草モチーフのカフリンクス、タイピンも忘れないようにシャツのポケットにつけてある。ジャケットのフラワーホールにも、同じく福寿草モチーフの蒼いピンブローチ──俺がデザインした幸せの光たち。
ジェイに「どうして発売日に買いに来たの? それも三点全部」と聞いたら、彼はこう言った。
「ヒューの作ったものを誰にも渡したくなかったんだ。あの時期、ヒューが出ていったばかりで絶望感に打ちひしがれてた。だからせめてと思って……つまりは独占欲だね。でも、君が今ここにいる今だって、君に関わる全てのものを僕とミアのものにしたいくらいだよ!」
力説するジェイに思わず笑ってしまった。
ジェイって、見た目はナイスガイだし、なんだかんだ言って仕事もできるんだけど、俺の前では子供みたいなところがある。
俺も同じ。
外では大人ぶっていたり(実際、三十になるいい大人なんだけどね)、ジェイやミアの前で偉そうぶってたりする。でも、ジェイと二人きりになると凄く甘えたりして……ベッドの中では特に。
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