第七章

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 次の日、千春はいつもの公園で翔太と待ち合わせをした。ジルの事について話をするためである。もちろんジルも手提げ袋に入れて連れていった。  「本当にそれくらいしか生きられないのか」翔太は信じられないような様子で聞いた。  「うん……そうなんだって」  「ちーちゃん、ルビック星ではそれが当たり前だから、気にしないで」  「でも、私のママと同じぐらいしか生きられないなんて……」  「たしかに、それぞれの星によって状況が違うからな」  「そんな、翔ちゃんまでそんな事言わないでよ」  「だって、10歳で結婚してるんだから……いや、ちょっと待てよ」  翔太は腕組みをして考え出した。千春とジルは不思議そうに顔を見合わせた。  「ジル、ルビック星の円周はどれくらいだ?」  「たしか、40万ギルムだったと思うけど……」  「ギルム?」  「ルビック星の長さの単位だよ」  「どれくらいの長さだ?」  「あ、ジルの身長はどれくらいだっけ」  「30クロームだよ。クロームも長さの単位」  「以前ジルの身長を測った時、たしか15cmだったよ」  「それで、1ギルムは何クロームだ」  「1万クローム」  「ということは……」翔太はポケットから電卓を取り出し、計算を始めた。しばらくしてニヤリとした顔をした。  「ちょっと、翔ちゃん。こんな時ににやけた顔しないでよ」  「安心しろ。ジルはそんなに早くは死なないぞ」  「どういうこと?」  「千春、一日は24時間だろ。どうやって決めた?」  「どうやってって、昔からそうでしょ」  「バカだな。地球がぐるっと一回転するのにかかる時間が24時間なんだろ」  「あっ、そうか」  「ルビック星の自転の速度はわからないけど、たぶん地球と同じだと思う。そうでないと遠心力の関係でバランスがとれなくなるからな」  「遠心力?」  「わからなかったら聞き流せ。ルビック星の円周を地球の単位に直すと約2万km、地球のおよそ半分だ。もし地球とルビック星の自転速度が同じだとすると、ルビック星の一日は約12時間だ。ジル、ひょっとして、ルビック星の一年は700日以上あるんじゃないか」  「728日だけど、どうしてわかったの?」  「やっぱりそうか。地球とルビック星は同じ軌道を同じ速度で太陽の周りを回っている。つまり一年の長さは同じなんだ。それでルビック星の一日の長さが地球の半分だと、一年の日数は地球の約2倍になるんだ」  「どういうこと?」  「まだわからないのか。要するに、ルビック星の人たちは地球での2年間とほぼ同じ日数で一つ年齢が増える。つまりルビック星の人たちの年齢を地球人に換算すると、2倍になるってことだ」  「じゃあジルは……」  「地球人の70歳か80歳まで生きられる。俺たちと変わらないじゃないか」  「よかったぁぁ」千春はほっとしたのか、力が抜けて倒れそうになった。  「おかしいと思っていたんだ。わずか10歳で一人で地球に来たりするなんてありえないだろ。おまけに結婚してるなんて……」  「あ、そうか。じゃあジルは今、私たちの年齢で20歳ってこと?」  「そういうことだ」  「だったらお姉さんじゃない。ごめんね、今まで呼び捨てにしてて」  「あ、いいよ。ジルでいいよ」  「え、でも一年の日数が地球の2倍っていうことは」千春は手のひらに指で数字を書くようにして計算した。「730日になるでしょ。2日足りないじゃない」  「お前はどこまでバカなんだ」  「そんなバカバカ言わないでよ」  「まあ、言い過ぎたから取り消すよ。でも、ルビック星の円周が地球のちょうど半分っていう訳がないだろ。人間が正確に測って作ったわけじゃあるまいし。大体それくらいっていうことだ。一年で1日や2日の誤差はあるだろ」  「そういうことか。あ、そういえば、前にジルは一日が長いって言ってたよね」  「うん、もう慣れちゃったけどね」  「当たり前だ。ジルからしたら、地球は一日の長さがが2倍なんだからな」  「そうだよね」  「それにしても、まさか子供がいるとはな」  「うん……あっ」  千春はあることを思い出した。  「そう言えば、前に雄人君が家に来た時……」  「うん、私の子供も男の子なの。だからつい、手を握っちゃって……」  千春は切ない気持ちになった。あの時ジルは雄人を抱っこしたかったに違いない。でもジルの小さい体で地球人の赤ちゃんを抱くことはできない。だからせめて手を握ろうと思ったのだ。  「ごめんね、ジル。つらい思いをさせちゃったんじゃない?」  「ううん、逆だよ。うれしかったよ」  「うれしかった?」  「うん、雄人君に会わせてくれたおかげで、子供に会えないつらさをまぎらわせてくれたから……」  「そっか、よかった。あ、翔ちゃん、いろいろ教えてくれてありがとう」  「ああ」  千春は笑顔を取り戻した。
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