第八章

4/5
前へ
/74ページ
次へ
 「千春、お前そんなところで何やってるんだ!」翔太が下から千春に向かって叫んだ。  「翔ちゃ――ん、早く助けて。ちーちゃんが大変なの」千春の代わりにジルが声をかけた。  翔太は迷った。辺りを見回したが人はいない。大人を呼びにいこうと思ったが、時間がないと判断した。翔太は千春の真下に走り寄った。  「千春、手を放せ!」  「え?」  「大丈夫だ。俺が受け止めてやる。俺を信じて手を放すんだ」  「翔ちゃん……」  「何だ」  「……見ないで」  「見ないでって、何で」  「私、スカートはいてるから……」  「バカ、そんなこと言ってる場合か。見ないでどうやってお前を受け止めるんだ」  「だって……」  「わかった。スカートの中は見ない。約束する。だから早く手を放せ」  千春とジルは顔を見合わせた。二人は言葉を発せずにうなずき合った。千春は胸のところでジルの体を抱きしめ、大きく息を吸うと左手を放した。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加