第九章

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 迎えの宇宙船が来るのは午後7時となった。ルビック星の宇宙船であるため大きさはラジコン飛行機程度だが、念のために周囲に気づかれないように暗くなる時刻に合わせたのだ。そして宇宙船が着陸する場所は原っぱとなった。千春がジルを拾った場所が二人の別れの場所となった。ジルはタブレット端末を使ってこれらの情報をルビック星側に伝えた。  千春はまだ明るいうちにジルを連れて家を出た。亜里沙が夜間に外出を許されなかったので、その前にお別れをすませようとしたのである。  「さみしくなるね、ジル」亜里沙はジルの頭をなでながら言った。  「うん……」  「あ、これを持って帰って」亜里沙はそう言ってジルに小さな袋を渡した。  「これは何?」ジルは袋を受け取って聞いた。  「ヒマワリの種だよ。前にサイクリングに行った時、ヒマワリの花を見てきれいだって言ってたでしょ。ルビック星で育つかどうかわからないけど……」  「……ありがとう」  「それじゃあね」亜里沙は笑顔でジルに手を振った。  「あ、亜里沙ちゃん、ありがとう」千春はそう言って亜里沙の家を後にした。  亜里沙は必死で涙をこらえていた。自分より千春の方がつらいのだ。その千春の前で涙を見せるわけにはいかなかった。そして千春とジルが去った後、大声で泣いた。 
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