第九章

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 光はゆっくりと降りてきた。小さな光だったため。千春たち以外は誰も気づかなかった。  千春はいよいよだと思った。痛くない程度にジルの体をしっかりと抱きしめた。  やがて光はその姿がわかる高さまで降りてきた。SF映画に出てくるような宇宙船のミニチュアのような形をしている。そして千春たちのいる場所から少し離れた所に着陸した。しばらくして入り口が縦に開き、その先が地面に接触した。ちょうど階段のようになっていた。  翔太は千春の肩を軽くたたいた。千春は黙ってその場にしゃがみ、ジルの体を地面に置いた。ジルは別れがつらいのか、何も言わず、千春のほうを見ようともせずにゆっくりと歩き出した。  やがてジルは宇宙船までたどり着き、階段を上った。そして上り切った所でようやく振り返り、千春の方を見た。  千春はジルに向かって大声で叫んだ。  「ジル――っ。私、これから後何十回夏を迎えるかわからないけど、たぶん、いや絶対、今年の夏が私の人生で最高の夏だよ――っ。だって……」  宇宙船の入り口が閉まり始めた。  「だって、ジルがいたから―――っ」  「私もよ、ちーちゃん。元気でね――っ」  入り口は完全に閉まり、ジルの姿は見えなくなった。  宇宙船は音を立てずにゆっくりと上昇し、やがて見えなくなった。  千春はその場で泣き崩れてしまった。
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