1 幽閉

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1 幽閉

  深夜、いきなり王家の役人達に踏み込まれたアリーシャは慌てて跳ね起きた。  まだ、幼い弟達が怯えながら泣き叫ぶのも無理はない。 「お、お姉ちゃーーーーーんっ! やだよーーーー。怖いよーーー」  貧民街の住民達が遠巻きに見つめる中、宮廷の武官達が強引に乗り込んできたかと思うと、問答無用で容赦なくアリーシャの手足を縛り上げたのだ。 (何なのよ。こんなの酷いよ)  四日前から、お城の暗くてジメジメした地下牢に収容されている。  あまりにも理不尽な仕打ちに泣けてくる。家族と引き離されて長い間、こんなとろに閉じ込められてしまっているのだが、腹ペコで惨めで、どうしようなくてうなだれていた。  一日一回、スープのようなものは与えられてはいるが、今朝、薄いスープを口に入れた途端にウッと吐いている。  蛆虫入りのおぞましい代物に背筋がゾッとなった。  取調官に何度も同じことを尋問されており、もう、忍耐も限界だ。頭がどうにかなりそうで悶々としていた。  深夜、ウトウトと眠りかけていると足音が聞こえてきたので弾かれたように顎を上げる。 「ネル様!」  いきなり現れたのは王女のネルオラ・フランツなのだが、以前、ネル様のお誕生日のパレードの際にお顔を拝見した事があるだけで話をした事はない。  こんな場所に王女様が来るなんて通常では有り得ないことだ。頭巾付きの赤いマントと長靴というお忍びのスタイルで人目を憚っている。  銀に近い金髪で、絹糸のように綺麗で真っ直ぐにサラサラとしており、青白く透ける様な肌と細い鼻筋が王妃に酷似していた。二十四歳になったばかりの王女様の背後には暗い顔の痩身の老婦人が控えている。古参の侍女なのだろう。  アリーシャは栗毛に緑の瞳の可愛いらしい顔でぼんやりしていた。疲れ果てていたのだ。  そんなアリーシャに対して鉄格子の向こうからネル様が目を細めながら語り出してきた。 「あらあら、ずいぶんと小柄ね。あなたが弟を惑わせているアリーシャなのですね。お母さまはあなたのことを憎んでいます。我が母ながら敵に回すと怖い人なのですよ。なぜ、弟を誘惑したのですか? 指輪を盗む為ですか?」 「いいえ。違いますよ。あたしは誘惑なんてしていません! 盗んでいません」  必死になって訴えていくが、ネル様が残念そうに呟いている。 「お母様は、あなたのことが許せないとおっしゃったのよ。でも、お父様は違うの。息子が無事ならそれでいいの」  昨日の午後、賢人会議の席で王妃は眦を吊り上げて激昂したという。  王子は十四歳になったばかり。王妃にしてみれば、まだまだ可愛い坊やだ。  だからこそ、アリーシャが許せない。 『ええい、忌々しい。まだ、あの小娘は自白しないというのか。何と強情な娘なのだ。早く、処刑してしまいなさい!』
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