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そんなふうに叫んでいたというのだが、王妃は、気性が激しいことで有名だ。
若かりし頃、憎い恋仇をことごとく毒殺したと噂されている。髪の梳き方が気に入らないという理由で解雇した侍女は数知れず。
王妃の肖像画を描いた絵師の何人もが実物よりも醜く描いたという理由で投獄されたとも聞いている。そんなことを思い返しているとネル様が言った。
「弟が何者かに襲われそうになったところを、あなたが飛び込んで救ったと聞いています。本当ならば、あなたは報奨をもらってもいいぐらいです。しかし、お母様は、あなたの自作自演ではないかと疑っています」
「いいえ。自作自演なんてありえませんよ。ほらほら、これを見てくださいよ。右肘の傷は暴漢ともみ合って出来たんです。誘拐犯に喉を締められて殺されかけたんですよ。必死で頑張ったんですよ」
「例え、助けたことが真実であろうとも、可愛い息子を虜にしている娘を消すべきだと思っています。地下牢で自害したように見せかけて殺してしまえばいいと考えています」
「ええっ、そんなっーーー」
困惑しながらもブルッと身震いすると、ネル様の刺すような視線に射抜かれた。
「あなたに一目惚れした弟は、隣国の姫君との婚約解消をしたいと言いました。実は、元々、弟は婚約者のマルガリーテ王女のことなど好きではなかったのです。でも、こんなふうに暴走したのは、あなたのせいです」
「はぁ、そうなんですか……」
「あなたが弟から貰った指輪は、お母様が去年の成人式に息子の為に作ったものなのよ。お母様は、弟の心を奪ったあなたを殺したくてたまらないのてすよ」
しかし、ある一人の老いた穏健派の大臣が王妃に進言したというのである。
『王妃様。アリーシャを秘密裏に始末するなど絶対にやってはいけませぬぞ。失意の余り王子が自殺するやもしれません。王子があの娘を自然と諦めるように仕向けるべきなのです』
『諦めるじゃと?』
『そうです。アリーシャを他の男と結婚させたなら丸く収まりますぞ。人妻には手を出せませんからな』
という訳で大臣が王子の恋を引き裂くための秘策を囁いたというのである。
『身分の高い男に娶らせると良いのです』
そして、王妃がその話に乗った。
「弟を守りきれなかった男と小娘をくっつけてしまえばいい。そう考えたお母様は心地良さげに微笑みました。警備総監のケネス・アハルマにあなたを押し付けると高らかに宣言したのです」
「……はぁ、押し付ける?」
ひどい言われようである。
「今回、彼の優秀な部下がついていながら王子を見失ってしまったのです。それで、彼が責任をとらされることになりました。我が国の王と王妃には懲罰婚を施行する権利があるのですよ」
「えーっと、懲罰婚というのは……」
何ですかと視線を向けると教えてくれた。
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