3月吉日

1/1
前へ
/33ページ
次へ

3月吉日

父の命日にはまだ少し早いのだが―― 祖母の七回忌と一緒に、父の三回忌を執り行った。 ようやく、ようやく、父の弟妹(きょうだい)たちを呼ぶことができた。 一緒にお寺でお経をあげて、お焼香をして。 お墓へ花を供え、墓地を巡回するカモシカを見つけて、明るく笑った。 会食のとき、私は少し長めのスピーチをした。 父が倒れたときのこと。 コロナ禍ゆえの葛藤のこと。 葛藤から抜け出すきっかけを得たこと。 父の最期のこと。 葬儀のこと。 その後の、私と母のこと。 コロナ禍でなければ、本来こういう話はとっくに共有されていて、私も母も、気持ちがもう少し楽になっていたはず。 それが2年間、下ろすタイミングがなくて、背負いっぱなしで。 私たちが楽になるために……と言ってはおこがましいけれど。ここで話すことで、荷を下ろさせてください。――そう言って、私は語り尽くした。 涙はやっぱり、止めることができなかった。 「食べながらでいいですよ」 苦笑しながら3回ほど促したが。 叔父叔母たち、イトコたち、みんな、箸を置いてじっと聞いていた。 叔母の1人は、くるっと体をこちらに向けて、正対して聞いてくれた。 あとで私と母のところに来て、 「和珪ちゃんのおかげで、兄貴の最期がどんなだったか知ることができて良かった」 とウーロン茶をついでくれた。 叔母もちょっと、涙ぐんでいた。 帰宅時。運転する義兄に尋ねる。 「私のスピーチどうだった? お姉ちゃん泣いてた?」 「不覚ながら俺が泣いた」 物書きとしてはヨッシャ!とガッツポーズである。 叔父からも翌日、LINEでメッセージが届いた。 「ようやく俺にとっての兄貴の葬儀ができた気がする」 ようやく。 本当にようやくである。 私と母も。 担ぐには重すぎたその荷を、ようやく下ろすことができ、肩が軽くなった日だった。 父もようやくみんなに会うことができて、照れ笑いしていることだろう。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加