心というものが煌めく珠なれば 〜心珠精神科医・藤堂縫のカルテ〜

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 安利は冷静にタブレットを出し、画面を見せる。 「この女性が、本日こちらで診察されませんでしたか?」  タブレットの写真は、蓮見氷愛華だった。受診時と同じ服装だが、黒目がちな大きな瞳は泣き腫らしたようで、顔色も悪い。明らかにやつれている。 「はい。受診しました」 「このかたは、蓮見氷愛華さんで間違いありませんか?」 「ええ」  警察の事情聴取に応じたのは、初めてだ。患者の個人情報をどこまで話して良いかわからないので、とりあえず、受診した事実だけを話そうと決めた。 「何時から何時でしたか?」 「14時の予約で、時間通りに来ていました。終了したのは、予定通り30分後の14時半」  縫が答えたとき、女性刑事のスマートフォンが鳴り、隠れるように電話に出た。安利とアイコンタクトを取り、安利は縫に質問を続ける。 「何か変わった様子は」  この質問に、縫は躊躇(ためら)った。診察の内容に触れてしまう。 「……ごめん。聞き方が悪かった。変わったことがあるから、患者さんは病院に来るんだよね」 「ううん、そういう風には聞こえなかったよ」 「縫は優しいな」  安利の大きな手が、縫の頭に優しく乗る。わずかな重さを実感し、縫は頬が緩むのを我慢した。ちらっと安利を上目遣いで盗み見ると、彼も口元の綻びを隠せずにいる。 「ちょっと、ふたりとも。いちゃいちゃしないで」  女性刑事が電話を終え、スマートフォンをスーツのポケットにしまった。 「縫さん、悪いけど、一緒に署まで来てくれる?」  女性刑事のさばさばした物言いに、安利が一瞥した。女性刑事はその目を受け、変わらぬトーンで続ける。 「縫さんに捜査協力を依頼したいの」
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