心というものが煌めく珠なれば 〜心珠精神科医・藤堂縫のカルテ〜

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 本日13時32分。110番通報があった。 「心珠を娘に壊されたの! 娘に殺される!」  女性は裏返った声で叫び、通話は一方的に切れた。  葛西に住む蓮見(はすみ)彩子(さいこ)の自宅から、本人のスマートフォンからの入電だとわかった。  自宅は一軒家で、警察官が家屋に入ったときには彩子は大量に血を流した状態で倒れていた。  彩子は救急搬送されたが、しばらくして死亡が確認された。  死因は、心臓をナイフで一突きされたことによる出血性ショック。死因とは関係ないが、左の手のひらにもナイフによる刺し傷があった。  彩子のひとり娘の氷愛華は、警察が行方を探している最中に15時25分に帰宅し、警察官に付き添われて彩子が搬送された病院に行った。  彩子の死亡が確定すると、氷愛華は取り乱して叫んだ。私が母を殺しました、と。  氷愛華は、今は署の留置場で疲れたように眠っている。街の防犯カメラの映像から、彩子の110番通報と氷愛華の行動は合っていない。氷愛華は彩子を殺していないことは状況から見て明らかなのに。 「心珠を壊された」  捜査の報告を聞き、縫はその部分を繰り返した。 「その発言もあり、心珠の研究者である藤堂縫先生に捜査協力をお願いするに至りました。それに、氷愛華さんの事情聴取を進めるためにも、主治医である藤堂先生のご協力が欠かせないという判断になりました」  縫には階級がわからない、偉い立場の人に言われ、縫は「買いかぶり過ぎです」と言いたかったが、相手を嫌な気持ちにさせたくなかったため、我慢した。  縫は医師でありながら“心珠”の研究を行っているが、優秀なわけではない。氷愛華の主治医となったのは本日であり、まだ氷愛華のことはよく知らない。こんな自分が捜査協力をしても良いのか、不安になってしまう。  捜査会議が終了し、安利の先輩の女性刑事がボールペンをスーツの胸ポケットに入れ、その手を開き、“心珠”を出現させたのを、縫は目撃した。
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