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刑事課の隅で捜査資料を確認し直し、思考をフル回転させる。
縫が気になるのは、彩子の「心珠を娘に壊された」「娘に殺される」という発言と、氷愛華が母親の殺害を自供するに至った背景である。
鑑識と検死の結果によると、110番通報をしてから、左の手のひらの刺し傷ができ、同じナイフで心臓を突かれたということになっている。ナイフの柄についた指紋と血痕は、彩子のものだけで、室内の血液の飛散の状況から、飛散を遮るものはなかった。
現段階では、彩子の周辺でトラブルなどは確認できていない。縫は知らなかったが、彩子は有名なインテリアデザイナーらしく、最近何かの賞を受賞して話題になっていた。雑誌のインタビューには応じているが、SNSは一切やっておらず、プライベートは謎に包まれていた。自宅が仕事場になっており、近所付き合いは希薄。訃報がネットニュースにアップされても、手がかりになりそうな情報は流れてこない。
「縫、そろそろ休みなさい」
安利に声をかけられ、縫は我に返った。
「私なら、大丈夫だよ。明日は外来がないから、1日ここにいられるし、徹夜は慣れているから、それに、私の心珠はこれ以上澱まないもの」
安利は口を閉ざし、眉をしかめた。卑屈になるな、と言いたいようだが、縫は気づかないふりをした。証拠品の中からタブレットを借り、データを確認する。彩子と氷愛華が共用しているというタブレットには、スケジュール管理アプリが入っており、ふたりの予定が細かく入力されていた。次はクレジットカードのアプリを開く。それを眺めているうちに、縫は胃液がこみ上げてくる感覚をおぼえた。
「おい、縫!」
前かがみになった縫を、安利が支える。
「今日は帰って寝ろ!」
珍しく、安利が縫に対して声を荒げた。本気で心配してくれる彼に申し訳ないと思いつつ、縫は厚意に甘えることにした。不謹慎だが、こんな自分を彼が心配してくれることが嬉しかった。
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