0人が本棚に入れています
本棚に追加
5年生になったばかりの頃、同じクラスの竜也くんと流れでそうなって付き合ったことはあった。けど、なにが上手くいったのか分からないくらいには全部がダメですぐに別れてしまった。今ではあえてお互い口も聞かないくらいだ。でも、もし今も付き合っていたなら、竜也くんともこんなふうにキスをしたり、していたのかな。食べたばかりの、給食のクリームシチューが逆流して吐きそうになる。酸っぱくなる口の中を必死に押さえ込んで、ぎゅっと手を握りしめた。そんなこと、考えられない。ましてやその先なんて。気持ち悪い。
「……琉香はさ、どうやって人を好きになるの?」
どうしようもない気持ち悪さを紛らわすための咄嗟の質問。そんな苦し紛れの会話の切れ端を琉香はひょいと掴んで器用に編んでいく。琉香はおしゃべりも上手だから、どんなボールを投げても必ずキャッチしてくれる。わたしがどんなひょろひょろのボールを投げても、きちんと受け止めてまた投げ返してきてくれる。おしゃれで可愛い琉香と、至って普通のわたしが、こんなふうに親友でいられるのもそんな琉香のコミュニケーション能力のおかげだと思う。じゃなかったら、きっと釣り合わないし。わたしたち。
「どうやって、って言われてもな〜、なんか気づいたら好きになってる?みたいな。それで、後から、ああここが好きなんだなとか、細かい好きに気づいていく感じかなぁ」
雑誌の特集に書かれていそうな完璧な答えだった。思わず「すごい……」と言葉が漏れて、それを聞いた琉香は楽しそうに笑っていた。
「あ、やば。そろそろ先生くる。またね、由奈」
バタバタと雑誌を片付けて、少し離れた自分の席に戻っていく琉香が小さく手を振り、わたしもそれに手を振り返す。次は国語、かぁ。漢字テストもあるんだったっけ。嫌だな。
わたしは机の上に教科書を並べ、授業が始まるのを大人しく待った。先生がくるギリギリまでおしゃべりをしている度胸もなく、ただじっと待つこの時間も、少しだけ苦手だった。綺麗に角を揃えた教科書が逆に情けなくて、頬杖をついたまま窓の外を見る。体育の授業の準備をしている隣のクラスの子たちが楽しそうに走り回っては先生に怒られていた。いいな、楽しそうで。
最初のコメントを投稿しよう!