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さっきよりも軽くなる足取りに、わたしたちを写すカーブミラーがプリクラみたいでなんだか嬉しくって。斜めにさした7月の太陽がわたしたちを照らしてまるでスポットライトみたい。けど、そんな浮かれる気持ちを無視したままなずなちゃんの押す自転車の横を歩く。だってこんな気持ちおかしいから、だってこんなの変だから。
「なずなちゃん、高校楽しい?」
「楽しいよ〜由奈も同じ高校だったら良かったのになぁ。そしたらさ、一緒に登校できるのにね」
世間話の延長、なのにその一言が嬉しくて指先とほっぺが熱くなる。
「帰りに、クレープ食べたりとか?」
「そうそう。一緒にスカート短いって怒られたりさ〜」
きしし、と笑うなずなちゃんの笑顔は真夏が詰め込まれたみたいに明るくチカチカしていた。たまに見える八重歯がわたしは大好きで、なずなちゃんの小さな顔にすっごく似合ってると思っていた。
「じゃあ、またね」
いくら近所でも分かれ道はくる。地面に書かれた矢印が、わたしとなずなちゃんをバイバイさせる。この後一緒に遊ぼうだとか、わたしもそっちに行きたいだとか、そんなワガママも最近までは言えていたのにな。今じゃ恥ずかしくて言えなくて、黙って手を振って背を向けて帰っちゃう。なずなちゃんはどんな顔して手を振ってるんだろう。反抗期だとか、そんなふうに思ってるのかな。信じたくない、認めたくない気持ちに一生懸命蓋をして家の玄関を開けた。小さい声のただいまは今日一日を表しているみたいだった。
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