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「あ、なずなちゃん」
「おー、由奈!また会えたね〜」
今日は待ってたなんて言ったらどんな顔するのかな。嫌がる、かな。
「あ、あの」
「わ、改まってどうしたの急に」
「なずなちゃんが好きです」
2秒、3秒?黙ったままのなずなちゃんとわたしの間に夏のぬるい風が吹いていく。芽生えた夏の葉が控えめに揺れては元に戻って、小さな小さな音になる。
「へ?」
顔を真っ赤にしたなずなちゃんが発した一言に、わたしまでなぜだか恥ずかしくなって耳が熱くなってしまう。
「えっと、あ、えっとその今のは」
「嬉しい」
「え?」
「由奈さ、最近あんまし話してくれなくなってたから、嫌われちゃったかな〜とかそういうお年頃なのかな、とか色々思ってたんだけどね、そっか、好きかぁ。それってちゃんと好きってこと、だよね?」
「ちゃんとっていうか、うん。恋ってことなんだって、親友が教えてくれた」
「そっかぁ。嬉しいな。じゃあさ──」
「──で、でもっ、女の子同士だし、歳も離れてるしっ」
なずなちゃんの言葉に強引に被せる自分の言葉。分かってる、調べた時に出てきたから。この国ではまだ女の子同士じゃ結婚できないって。それに、自分でもまだ変かもって思っちゃうし。だから伝えるだけで良かった。答えは聞きたくなくて。耳を手で塞いでしゃがみ込んだ。
いつものように自転車を押してたなずなちゃんは自転車を隅に止めてこっちに歩いてくる。もう放っておいてほしかった。消えちゃいたかった。なのになずなちゃんはやさしく頭を撫でてくれて、そっと耳から手を引き離す。
「由奈」
「やだ」
「もう、聞こえてんじゃん」
「……聞こえてないもん」
「私待つよ。付き合える歳になったら付き合お」
「え?」
なずなちゃんのびっくりするような言葉に思わず顔を上げてしまった。バチッ、と目が合って火花が散ったかと思うくらいドキドキする。パッと目を逸らして話を続けた。どっ、どっ、どっ、と鳴る自分の中の心臓がうるさくて話に上手く集中できない。
「待っててくれるってこと?女の子同士だし、歳も離れてるのに?」
「きっと、由奈がもう少し大きくなる頃にはもっと自由になってるよ。それに離れてるって言っても6個だけだよ。大人になったらそのくらい離れて付き合ったり結婚したりしてる人、普通にいるじゃん?」
思ってもみなかった言葉の羅列に目をぱちくりさせて黙ってしまうわたしを見て、あははと笑うなずなちゃん。なんだかなずなちゃんも安心したような顔をしていて、もしかしたらわたしと同じ気持ちだったのかな、とか。そんなことを思ったりした。
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