捨てるをめぐる私たち

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「おかえりなさぁい。で、ナニ話しました?」  私が車に乗り込むなり、岡野はニヤニヤと好奇心丸出しで尋ねてきた。完全に楽しんでいる。  こいつは毎日何をしに来てるんだ。  面倒だが、一応、先ほどの話をしておく。 「ほーら! 俺の言ったとおりじゃないすか。旦那は死んでると。俺の推理どおりだっ」 「お前のは全然推理じゃない。ただの妄想だ。いい加減なこと言うのはやめろ」 「じゃあ、樋渡(ひわたり)さんは何だと思うんです?」  私は言葉に詰まった。  眉をひそめて、窓の外に目をやる。  ちょうど通学時間だ、小学生の集団が登校しているのが見える。 「あまり考えたくないが」 「はい」 「綺麗好きのご主人がいなくなり、家の中がゴミ屋敷のようになっている。つまり、自宅はモノで(あふ)れかえっていて、何を捨てたらいいかわからない」  私なりに、割と真面目に考えた結果だった。   「夢のない答えっすねー」  そして、岡野に鼻で笑われた。 「別に夢を語ってるわけじゃない。しかし……少し心配だ」 「あー、樋渡さん、さては惚れましたね? 惚れちゃいましたねあの女性(ひと)に。そっちはちょっと、夢があるっす!」  こいつはだめだ、言動が軽すぎる。  いいやつだと思っていたが、先輩として厳しく指導してやったほうがいいかもしれない。 「あのー樋渡さん。ちょっと嫌なこと言ってもいいすか」 「いやだ」 「そう言わずに聞いてくださいよぅ。まさかのまさか、あの奥さんの捨てたいものって」  運転する後輩の顔が、ふと真剣なものになる。 「リクくんじゃないっすよね?」  その瞬間、私は、本気で岡野の頭を殴った。
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