53人が本棚に入れています
本棚に追加
「おかえりなさぁい。で、ナニ話しました?」
私が車に乗り込むなり、岡野はニヤニヤと好奇心丸出しで尋ねてきた。完全に楽しんでいる。
こいつは毎日何をしに来てるんだ。
面倒だが、一応、先ほどの話をしておく。
「ほーら! 俺の言ったとおりじゃないすか。旦那は死んでると。俺の推理どおりだっ」
「お前のは全然推理じゃない。ただの妄想だ。いい加減なこと言うのはやめろ」
「じゃあ、樋渡さんは何だと思うんです?」
私は言葉に詰まった。
眉をひそめて、窓の外に目をやる。
ちょうど通学時間だ、小学生の集団が登校しているのが見える。
「あまり考えたくないが」
「はい」
「綺麗好きのご主人がいなくなり、家の中がゴミ屋敷のようになっている。つまり、自宅はモノで溢れかえっていて、何を捨てたらいいかわからない」
私なりに、割と真面目に考えた結果だった。
「夢のない答えっすねー」
そして、岡野に鼻で笑われた。
「別に夢を語ってるわけじゃない。しかし……少し心配だ」
「あー、樋渡さん、さては惚れましたね? 惚れちゃいましたねあの女性に。そっちはちょっと、夢があるっす!」
こいつはだめだ、言動が軽すぎる。
いいやつだと思っていたが、先輩として厳しく指導してやったほうがいいかもしれない。
「あのー樋渡さん。ちょっと嫌なこと言ってもいいすか」
「いやだ」
「そう言わずに聞いてくださいよぅ。まさかのまさか、あの奥さんの捨てたいものって」
運転する後輩の顔が、ふと真剣なものになる。
「リクくんじゃないっすよね?」
その瞬間、私は、本気で岡野の頭を殴った。
最初のコメントを投稿しよう!