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虫の音に目を覚ました真珠は桔平が起き上がって縁側の向こうを見ているのに気がついた。
「有さ……
桔平さん?」
普段、桔平はドバイにいて、あまり会うことがないので、その名前を呼ぶ機会も少なく。
つい、以前のまま、有坂さんと呼んでしまいそうになる。
「起きたのか、真珠」
眉をひそめて言う桔平に、
お、起きてはいけませんでしたかね……と思ったが、桔平はちょと笑い、
「寝顔、可愛かったのに」
と言う。
そ、そんなやさしげに見るのはやめてください。
照れてしまうではないですか……と真珠はまた、俯いた。
まだ窓は閉めないままだった。
縁側から虫の音とともに心地よい夜の風が入り込んでいる。
「いい夜だな。
もう少し呑むか?」
「えっ、でも……」
もう結構呑みましたし、と思ったとき、桔平が布団の側のちゃぶ台を見て呟いた。
「どうだろうな。
あんまり呑むと、喉が渇いて、かえって目が覚めるかもしれないし」
ちゃぶ台には、さっき呑んだワインの瓶が並んでいる。
二人で結構空けてしまった。
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