旦那様が谷中にやってきました

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 久しぶりの二人きりの夜だ。  向かい合って呑んでいるだけで、気持ちが弾む。  おかげで、酒もどんどん進んでしまった。 「真珠、ドバイに来ないか?」  桔平が、そう訊いてくる。 「そしたら、いつも二人でこうしていられる」  そう言いながら、桔平は真珠の細い体を抱き寄せた。  急に引き寄せられ、よろけて桔平の胸に額をぶつけながら、真珠は思っていた。  桔平さんの匂いだな。  ドバイから追いかけてきてくれたときにも思った。  この人の香りが混ざって初めて、乳香の香りが完成する。  さっきまで焚いていた乳香の香りはまだ部屋に漂っていた。  真珠はそのままの体勢で、小さく口を開く。 「でも……、いないじゃないですか」  ん? と桔平が真珠を見下ろす気配がした。
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