神様、この嘘を本当にしてください。

バスに揺られながら、あの時のことを思い出す。涼子は俺と別れる道を選んだのだ。最後に話し合えなかったのは残念だったが、会わずに別れるというのが彼女の回答だったのだ。

まさか彼女も十年たってこんな形で俺に会うとは想像していなかっただろう。そう考えると偶然とはいえ不憫に思う。

「涼子は結婚してるの？」

何を言おうか悩んだ挙句、俺はこんな質問をしてしまう。彼女はすぐに首を横に振った。

「こんな仕事をしてて結婚してると思う？」

「そっか。そりゃそうだな」

野暮なことを聞いてしまったと反省する。

「悠太は結婚してるの？」

「してないよ。こんな仕事をお願いしてるのに、結婚してると思う？」

「それはそうね」

彼女がそう答える。

そこで会話は途切れた。そこから病院に着くまで、俺達が話すことはなかった。周りから見れば、到底夫婦には思えないことだろう。