神様、この嘘を本当にしてください。

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父の余命は一ヶ月だと医師から宣告された。 父の癌は進行が早く、手の施しようがなかった。六十を迎えたばかりの父にとって、それは酷なことかもしれない。しかし、何度も転移を繰り返し、その度に死の淵から蘇った父が、手術や抗がん剤で何とかここまで生きてこられただけでも奇跡に違いない。 俺も心の準備はできている。ただ、一つ心残りがあった。それは父に結婚相手を見せられなかったことだ。俺には恋人もいない。一ヶ月で結婚相手を連れてくるのは不可能だ。 けれども、世の中にはすごいサービスがあることを知った。それは「妻代行サービス」というものだ。いわゆるレンタル妻のことで、お金を払えば、赤の他人である女性が妻を演じてくれるのだ。父を騙すのは申し訳ない気もするが、どうせバレることのない嘘だ。冥土の土産に結婚相手を見せて喜ばせようと思ったのだ。 インターネットで予約し、その女性とは病院近くの駅で待ち合わせることになった。ところが、待ち合わせ場所にいた女性は、十年前に別れた元恋人だった。
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