Reborn

1/73
前へ
/73ページ
次へ
絶景だった。 この世のものとは思えないくらいの桜。 山風が川面を撫でていくのと同時に、川岸の桜並木から鳥の羽根のような花びらが、ふわぁっと舞い上がるのだ。 「すごい・・・きれい」 吊り橋に片足を掛けたまま、矢吹茉子は呟く。 「オバサン、こんなとこで何やってんの?」 声をかけてきたのは若い男性で、キャンプか何かの帰りのようだった。 茉子は、何やってんの?と聞かれて戸惑う。 「ああ、自殺?」 あまりに軽くその単語を口にした若者は、手をヒラヒラさせて 「ここ、自殺名所とかネットに書いてあるけど嘘ウソ。ここから飛び降りても死ねない。失敗した人いっぱいいるから」 と笑いながら言った。 「え?そうなの?」 茉子はしばらく吊り橋から下を覗いていたが、掛けていた片足を下ろした。 「なに、オバサン死のうとしてたの?そんな風には見えなかったけど」 「死のうとしてたら、桜が舞って、あまりにキレイで見とれてた」 アハハハ、と彼は笑った。 屈託のないその笑顔は10代の学生にも見えた。 「死ぬ間際に桜に見とれてたなんて。切羽つまってないじゃん、オバサン。もっと先行った所に有名な自殺名所あるよ?そこは確実に死ねる。連れてってあげるよ」 彼はそう言って笑って茉子の手をとり歩き出した。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加