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茉子は意識的に生きている。
生かされている、といっても過言ではない。
茉子の無意識の領域はすべて"痛み"によって侵されていた。
毎日意識的に薬を飲まなければ、全身を刺すような痛みから逃れられない。
薬を飲んだら痛くないという訳じゃない。
人間の脳というのは、そんなに単純にできていないらしい。
痛い日もあれば、痛くない日もある。
死にたくない日もあれば、死にたい日もある。
病気になってから、茉子は無意識に生きてる事の有り難みを知った。
テレビを観ている1時間、ただバラエティ番組に笑っていられる事の有り難みだったり、普通に料理を作れる事やそれを美味しいと感じる事の有り難みだ。
日に日に激減する体重を恨めしく思ったりも、辛うじて残りつつある胸や尻の膨らみが心底愛しく思えたりもする。
病気になってから様々な感情が茉子を襲った。
それは誰にも理解できないだろう。
そんなものなのだ。
人の人生というのは。
彼の背中は意外な事を言い出した。
「オバサンの死に場所、もっと良い場所探そうよ?こんな山奥じゃなくてさ、もっと・・・死んでも忘れられなくなるような世界一綺麗な場所」
そして、彼は寝返りをして背中じゃなく真っ正面から茉子を見た。
「ね?2人で探そうよ」
暗闇に妖しく光る彼の瞳は天使みたいな、悪魔のような、不思議な瞬きだった。
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