Reborn

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雨はすっかり上がっていた。 誰も歩く事の無さそうな登山道。 笹の葉に滴る昨夜の雨粒。 雑木林を勢いよく抜ける黄色い自転車。 風みたい、と思った。 自分の息子くらいの歳の男の子は、春の風みたいに軽やかで清々しくて。 そしてミステリアスだった。 茉子はどうせ死んでもいいと家を出てきたのだから、この名前も知らない若者に殺されてもいいのだ、と半ばやけっぱちだった。 けれど、この彼は茉子を殺すどころか手をかける事すらないし、食事も与えてくれるし、毛布も譲ってくれる。 そして、自転車の後ろにも乗せてくれているし、春の風みたいに走ってくれるのだ。 茉子は年甲斐のない彼の逞しい背中に遠慮がちに掴まりながら、目を閉じて心の中で呟く。 もう少しだけ。 この幸せな時間を私にください。神様。
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